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第14話
ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ……
――なんの音だろう?……あぁ、携帯だ……
相手も確かめず、スマホの画面をタップして耳に携帯を押し付けた。その冷たさが気持ちいい。電話の相手は何も言う前から食い気味に
「勝己?1日遅れたけど、誕生日おめでとう!」
「……将人?あぁ、うん。ありがとう……」
『もしもし』も言わせてもらえなかった相手は電話に出たのが誰かも確認せずに、自分の要件を矢継ぎ早に伝えてきた。半分眠ったままの電話に違和感を感じた将人が
「勝己?どうした?具合悪いのか?」
「…あぁ、うん。ちょっと…熱があって…寝てた…もしかして、何度も電話くれてた?」
「いや、1回だけだから大丈夫だけど…誕生日なのに災難だったな。今日、尚さんは?」
「…仕事に行く…って、言ってた…外せない…会議が…あるんだって…」
「うわぁ〜!!俺が近かったら、すぐにでも看病に行くのに!!こういう時、離れてるのが悔しいよ…勝己が辛い時に傍に居られなくてゴメンな……」
否、今来られても、逆に困る。熱を出した理由は昨夜の行為にあるだろうことは、なんとなく分かっていたから……
「…心配かけて…ゴメンな…寝落ちしそうだから、元気になったら…また…」
「あっ…逆に俺の方こそごめん。また連絡するよ。風邪、早く治せよ?今日はゆっくり休むんだぞ?」
「ありがとう……また……な……」
――おまえは『おかん』か……?
心の中でまたツッコんだけれど、話す気力は残ってなかった。それ以前に母親は目の前で息を引き取ってるので、その話題は暗黙の了解のように避けてきたことだった。
それでも残った意識を総動員して携帯をタップして一度電話を切ってから、電源ボタンを長押しして電源を落とす。
たかが義弟とすらまともに話が出来ないのだから、友達からの電話でも、失礼なことをしてしまわないように。
何時間眠っていただろうか?
尚之が来た時には、まだ、早朝だった。将人から電話がきた時は、外が明るかった。時間までは記憶にないが携帯の電源を入れて履歴を見れば時間はわかるだろう。
身体はだいぶ楽になっていた。熱が下がってきているのだろう。少し起き上がり周りを見渡すと、すでにあたりは真っ暗だった。サイドテーブルからペットボトルを取り、1本を一気に飲んだ。パジャマは汗で濡れていたのか、うっすらと寒気がする。
――着替えなきゃ……
そう思った時、ガチャガチャと忙しなく玄関の鍵の施錠が外れる音がした。
ドタバタと忙しなく階段を上がってくる音からして、空き巣や強盗ではないとわかる。
コンコン、とドアがノックされたことによって、相手が尚之だと分かる。将人ならノックもなしに飛び込んでくるからだ。
「はい」
返事をすると尚之はドアを開けた。
暗闇の中、勝己はベッドサイドに座っていた。着替える為に起き上がった所だったからだ。
階段、廊下の電気が入り込んできて、尚之は逆光で表情までは伺い知れない。
「予定より遅くなったし…携帯は繋がらないし、家が真っ暗だったから、少し焦ったよ…」
いったい何に焦ることがあるのだろう?
「今、汗をかいたから着替えようと思って、起き上がったところ。携帯はごめん、まともに話せそうになかったから、電源を落とした。」
「……誰かから電話があったのか?」
「将人だよ。誕生日のお祝いにって。けど、熱があがってた時みたいで、寝落ちしそうだったから、下手に電話に出たくなくて……」
「……そうか。将人は元気そうだったか?」
「うん。もしもしすら言わせてもらえないくらいは元気だったよ」
思い出すだけで、クスリと笑ってしまう。
「ところで、勝己は着替えるんだっな?」
「うん?そうだけど……?」
「なら、パジャマを用意して待ってろ。体を拭いてやるから。その方がスッキリするよ?とりあえず、直ぐに着替えて準備をするから。」
「あっ、うん。……わかった。」
尚之は、ものすごい速さでスーツから部屋着に着替え、準備にとりかかった。
多分スーツは脱ぎ捨てられたままになっているだろう。シワにならなければ良いのだけれど…主婦的なことを思いながら、換えのパジャマを取り出す。乾いたタオルで身体を拭いてすぐにでも着替えたい気持ちでいっぱいだ。
ブルリと冷えていく身体に、また、発熱しそうな予感がする。パジャマを枕元に置いて、なるべく身体が冷えないように今まで温まっていたベッドに戻り布団を被った。
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