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第34話

勝己を高校卒業後から自分の会社に置くために 会社に通わせて、会社の人間を覚えさせる目的だった。最初のうちは、お茶を淹れてもらっていた勝己だが、そのうちに、淹れる側になっていく。 「勝己くん、ありがとう」 社員を様子を見ていても、忙しい者でも、 その言葉だけは忘れずに一瞬だけ手を止めて、 自分がひっくり返さない位置に飲み物を 移動させ、また業務に向き合う。 それはその日によって変わるので、同じ場所に置こうとしても、ごめん、今日はそこじゃない と言われるので、いつもその人が取りやすいような場所を選んで置くようにしていた。 ほぼ、みんなコーヒーを飲むが、たまに紅茶や緑茶を好む者もいる。顔と名前が一致してくると、その人に好みに合わせて何を淹れるかをメモして覚えている。 本来なら最初に持ってくるはずのコーヒーを 尚之に、持ってくるのを最後にさせてるのは、 その後に誰かに捕まらない為だ。 自分が最後で、少し手が空いている、という 社員と話し込むことがたまに見られた。 まだ、勝己は仕事を与えられてる身ではなく、 雑用の段階である。話す内容なんて、学校のことやくだらないことだけで、業務には関係ないことが多いのだ。余計な粉をかけられないためにも、自分のところには最後に持ってくるように、と指示をしたのだ。 秘書課に持っていった後に尚之のところに来るのだが、たまに冷めきっている時がある。 「どういうことかな?」 聞くと秘書課で長話をされるという。 秘書課のトップを呼び出し、仕事中に無駄話をしてるのか?と聞く。 勝己が可愛いらしく、今後、秘書課に配属されてくることを知ってる彼女たちが、根掘り葉掘り聞いているのだという。 実子ではないこと、などを聞いだしてはいたようだ。コーヒーが冷めるほど話し込ませる、というのは、課全体の責任でもあるし、仕事の手も止まってる証拠だし、まだ、勝己は秘書課に所属してる訳では無い。 確かに、そのうちに所属はさせるつもりでいるが、今はまだ、高校生なのだ、と叱咤する。 尚之との行為で、色気が増した勝己が心配で会社に呼んでいるだけなのだ。 秘書課は入れ替わりが激しい。 社内恋愛で寿退社していく人材が多いからだ。落ち着いた人間もいるが、見た目がそれなりに良い方が連れていても他社受けが良い、ということで、見目がいい人材が選ばれがちだ。 見目が良くても、希望部署がある場合は、その適正に合わせて所属させてはいたが…… 栄恵(つま)を亡くしてから、小さな会社を立ち上げた。自分一人なら、会社が傾いてもなんとかなると思ったからだ。 養うことと、栄恵の入院費用もそれなりにかかっていたので、会社員を辞める訳にはいかなかった。が、最初は、子供を1人抱えて離婚をしたばかりだった明美に手伝ってもらっていた。 どうしても経費管理まで手が回らなかったからだ。仕事が増えてきて、求人を出し、人を少しずつ増やしていった。そのうちの一人と明美は恋をした。相手もバツイチで、連れ子がいる、それくらいは知っていたが、明美も義子ではあるものの年齢が近い分干渉はしてこなかった。 ところが明美に病気が見つかり、後がないことを知ると、その男は無責任にも離婚し、自分の連れ子だった子供も置き去りにし、会社も辞めてどこかへ消えてしまった。 その頃には会社もそれなりに大きくなっては来ていたので、1人抜けてもそれほどの痛手ではなかったが、義理の孫たちを置いて出ていったが為に、そちらの世話が加わってきた。 けれど、上の明美の息子の勝己はしっかりした子だった。既に台所に立つことを覚えていて、下の将人はまだ、幼く2歳差とは思えない程にしっかりと弟の世話をしていた。 見目には姉と弟を連想させるほど、その体格差は大きく、2人に血の繋がりがないことがはっきりわかるほどだった。 小さい頃から明美が連れて亡き妻の所へ連れてきていた姿は知っていた。 その時は勝己は普通の男の子だった。勝己より体の大きな弟の将人が現れるまでは。 急に小柄にさえ思えるようになってしまった勝己だったが、見た目に反して、しっかりとした兄を作り上げていた。 そのやり取りが可愛らしく思えた。 明美の友達がたまに食事を用意してくれたり、身の回りの世話をしてくれることに感謝しつつ、たまに顔を出す程度のものだったが、明美が危ない、となった時も駆けつけてくれた。 叱咤激励を送りつつ、危篤状態の明美に声をかけ続けたが、明美は息を引き取った。 自分の子供を寝かせなければならないから、と亡くなったあとは直ぐに帰ったが、葬儀までの手続き等は手伝ってくれた。 3人で暮らすことを告げると、彼女はとても喜んでくれた。こんなことになった今、キツい性格の彼女のことだ。罵倒されることは間違いないだろう。 そんな彼女も再婚して、今は別の土地に住んでいるので、あまり接点は持っていない。 勝己への劣情を我慢するが故に、ワーカホリックのように働いていたら、それなりの会社へと成長していたのだった。

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