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第36話
「……もっ……出な……きょぉ……つら……」
将人が帰ってくる……その迷いをぶつけるように勝己を翻弄する。迷いが生じてしまうのは、久しぶりのGWに戻ってきた時の将人の態度だ
中学時代は、遠征、遠征、でほとんど帰ることなく、部活一筋に盆も正月もないような生活をずっとしてきた。高校にあがり、少しだけ余裕がでてきた将人は長期の休み、ということで久しぶりの帰省したのが先のGWだった。
元々、それほど帰省をするほうでは無い将人は勝己の変化を細かく感じとっていた。
勝己を見る目が変わった。その矛先が尚之に向けられたのは言うまでもない。
先に休んだ勝己がベッドに入ったあと、
「尚さん、話があるんだけど?」
先に踏み出したのは将人だった。
勝己がセットしてから淹れていったコーヒーメーカーから2人分のコーヒーを淹れて持ってきた。尚之はブラック、将人は砂糖とミルクを入れたカフェオレだった。そして突然、前置きもなく話し出した。
「……なんで、義兄さんはいつもあんなに眠そうにしてるの?普通の疲れ方じゃないよね?」
「将人はどう思ってるの?」
素直な将人の言葉が聞きたかったのが正直なところだった。
「俺は俺がいない間に、尚さんが何かしてると思ってるよ。尚さんが義兄 さんを見る目は、義母 さんが亡くなった頃から、すでに普通じゃない。それを俺が気づいてないとでも思ってた?だとしたらよっぽどお互いに平和ボケしてるとしか思えないよ?」
将人はちゃんと気づいていた。
「……なら聞くけど、私が勝己になにをしてると思ってるんだい?私が何をしたら勝己が疲れると思ってるんだい?」
将人は少し考えて、息を吐いてから、ゆっくりとその答えを導き出した。
「……尚さんが義兄さんになにかしらのいやらしいとこかな……と思うけど、それ以上の知識が俺にはない。逆になにをしてるのか見せて欲しいくらいだと思ってる……」
「もしそうだとしても、そんなデリケートな部分を見せさせられると思うかな?自分がもし、女の子とそういったことをしていたとしよう。それを私や勝己に見てほしい、と思うかい?」
将人は下唇を噛むような苦い表情をした。
「将人は、男ばかりのところで生活をしてきたんだろう?AVはみたことあるかい?」
「それがなにか関係あるの?」
「AVというのは男が性欲を処理することに使うことがほとんどだ。人それぞれ趣向は違うと思うけどね。将人はそれをみて抜いたことがあるか?好きな女優はいるのか?これからは必要になるだろう?
ネットで買うなら、課金する為のカードも必要になるだろう?」
「話、逸らしてない?俺は義兄さんが、なんで毎日、あんなに疲れてるのかを聞いてるだけだ。義母さんが入院してた時だって家事全般をやってくれてた義兄さんがあんなにヘロヘロになってるのをみたことがない。だから、家事だけが原因ではないだろうし、今日の飯は尚さん
が作ったんだろ?義兄さんの味じゃない。小さい頃から食べ慣れているんだ、それくらいは俺にだってわかる。俺が想像してる以上のことをさせてるとしか思えないんだよ……」
確かに将人の言ってることも正論だ。
尚之がしてることは背徳行為かもしれない。
あながち、将人の言ってることは、間違ってはいない。ただ、知識がないだけだということはわかった。
知識を身につける為になにをしてるか、見せろ、というのは少々デリカシーに欠けてる部分があるが、さすが高校1年生にもなれば、調べようと思えば調べることはいくらも可能だと、スマホも買い与えているわけだから、きっと答えに辿り着くのも時間の問題だろう。
尚之の現在の最大のライバルは将人だと思っている。今はまだ、高校生でそれほどの脅威ではないが、尚之が勝己に触れたのも、16歳の誕生日の日だ。精通をしている将人にだって出来ないことはない。
その年齢で父親になってる人間だってこの世には存在してるのだから、不可能でない。
ただ、将人の恋愛対象が男か、女かの差は大きい。義兄っ子だった将人が勝己を恋愛対象にしない、とは言い切れないからだ。
「将人はどんなタイプが好きなんだ?」
「……突然なに?」
「ただの好奇心だよ。」
将人は少し考えてから
「わかんない。別に今、好きな人がいるわけじゃないし、芸能人を見ても綺麗とか可愛いとは思うけど、好きには当てはまらないかな……」
恋愛は女性とするものだ、という認識はあるようだ。自分のようなバイ・セクシャルの可能性も捨てきれないが……
「そうか。連れてこい、とは言わないが、彼女が出来たら、教えて欲しいかな……」
「義兄さんにもそれは言ってるの?」
「もう別れてしまったけど、勝己にも彼女はいたよ?家にまで連れてきてたくらいだからね。それこそデリケートなとこだから触れないでいてやってくれ。間違いなく、話したのは私だとバレてしまうからね。」
それを寝とって、恋愛を出来ないようにしたのは自分だが……
GWの短い期間は過ぎ、1週間も経たず、将人は寮へ戻って行ったが、次の夏休みは違う。
――どうしたものか……
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