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第14話

真っ白な空間に、 もうどれだけの時間こうしているのか。 桃李は、次第に考える事が 出来なくなっていた。 さっきから、もう延々と 頭の中に痛い映像が沢山流れてくる。 それは、昔々この世界で起きた事の 恐らく実際の記憶だった。 誰のかは、分からない。 ただ、荒ぶる化け物と 今より少しだけ若く 酷く血だらけでズタボロな姿の四龍が 命懸けで戦う映像だった。 止めろと、言ってもこの映像は止まらない。 頭に響く、皆の叫び声が 胸に刺さって酷く痛い。 それなのに、 彼らは昔話のまま、戦いを辞めない。 「おい、天帝。聞いてるんだろ。」 この真っ白な空間で、 聞こえてきた声があった。 女の人の声で、祖母かとおもったが どうやら間違い無く別人の様だった。 その誰かは、桃のお姫様の昔話を知っていて 尚且つ、この胸が刺すように痛い映像を きっとその目で見ていたに違いなかった。 それで、その声が 「あなたは、守ってあげられますか?」と聞いてきた。 "持つべきものは、麒麟の友ってな。" 「あんたは、俺に何をさせたいんだ。」 桃李は、真っ白な空間の地面を睨みつけながら言う。 「俺には、男と寝る趣味は無いし、 だからと言って、村の人達を疑う程程、神様を信じてない訳じゃない。 アイツら龍の事も、別に嫌いじゃない。 だがな、こんなのは拷問って言うんじゃねーのかよぉ?」 時間経過も方向感覚も失われた中、 暴力的な映像を延々と見せ付けると言うことは そういうことだと。 桃李は、鈍く働かない脳みそで必死に考えていた。 "そこまでするって事は、 何か弱らせて吐かせたい事があるんだ。 それで、それはきっとさっきの答えだ。 .....俺が、どれだけ本気で仕事するのか知りたいんだろうな。" 「それとも、流行らない頭ガッチガチの サイテーな大人がやる"圧迫面接"ってヤツか?」 言い連ねる桃李は、 突如首筋がビリっと火傷したような痛さに見舞われた。 「痛ってぇ...っ、くそ天帝、今度は鞭打ちかよ!」 だが、何処にも人影は見当たらない。 それなのに、 桃李の身体は確実に痛みを感じている。 「な、んだよ...これ。」 そして、その痛みは更に広がっていった。 鎖骨、肩、二の腕、指先、様々な所が ビリビリと引き攣ったようになってきた。 しかも、それだけでなく 痛みを伴った箇所からじわりと 覚えのある感覚が這いずり回ってきた。 まるで、仁嶺に路上で無理矢理口付けられた あの時の様な。 身体中を雷が走った様な感覚に似ている。 だが、このゾクゾクと這い上がって来る感覚は 雷ではなく、まるで炎。 這い回った感覚の後には、 チリっと肌が焼けた様に熱を孕んで行く。 やがて、 桃李の鳩尾辺りにそれは渦巻いてきた。 腹の中に留まるように、渦巻いている。 「また、これか...っ、!」 この腹の中に留まる感覚を、"あの時"は仁嶺が吸い取っていった。 つまり、この感覚もまた誰かに吸われるために作られたのだ。 「人の身体を、花の蜜吸うみてぇに...しやがって。」 この、感覚を快感と呼ぶには 出所も得体もちょっと知れ無さすぎるが、 絶対、天帝の仕業じゃない。 桃李は、必死に堪える。 耐えながら、1つ思い出した事があった。 それは、属性。 仁嶺が、あの時に寄越した感覚は まるで雷の様な激しさを伴っていた。 だが、今桃李の身体を占領しているのは、 火傷しそうなほどに熱い気配だ。 仁嶺を、祖父が青龍と呼んでいた。 他の龍たちも、名前とは別に玄武や白虎と呼ばれている。 それは、彼らの肩書きであり、特性だそうだ。 そして、その中で一人だけ居るのだ。 見た目の無愛想さや圧倒的な武力に似合わず、 人一倍優しい心を持ち、 他の龍達を自分が守るんだと心に決めている龍が。 それは、この火傷しそうな程の"気"が教えてくれた。 彼は、桃李の頭を占領する映像の中で 膝をつきそうになりながら必死で 彼らの前に立ち塞がり、 敵の攻撃を撃ち返し、守っていた。 "騰礼 これ、絶対お前だろ騰礼。 俺をここから出してくれよ。 そしたら、俺 お前を抱き締めて...言いたい事があるんだ"

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