16 / 44
第16話
そこに映った桃李の姿は
肌襦袢も羽織らず、
裸のまま逞しい騰礼の胸に寄りかかっていた。
だが、その瞳とその髪の色が
明らかに見知った自分の色では無かった。
「赤い、オレンジ...?」
「朱色と言う。」
「綺麗だ。お前みたい。」
「その俺の色になってるのは、お前だ桃李。」
ふっ、と騰礼が笑って
鏡の中で視線が絡み合う。
「嬉しいのか?」
「あぁ、お前がもうすぐ俺たちの元へ
帰ってくると思うと、嬉しい。
こうして、俺の色になったお前も見れて、嬉しい。
お前は、俺の宝珠だ桃李。」
低く甘くなった声が、甘くなった言葉を紡ぐ。
頭の後ろからそんな言葉が響いて、
桃李の鼓膜をさらりと溶かしていく。
「これ、黒に戻るの?」
「いや、薄桃色だ。」
「え、ウソ。」
「お前は本来、髪も瞳も薄桃色だ。
だが、隠さなければお前がただの人ではないと
バレてしまう。
俺たちは、地上へ長くは留まれない。
お前を人の手で守る為には、これが最善の方法だった。」
その封印が、今回は何故か解けかけていた。
本来なら、天界 高天原にて四龍が皆で解く習わしだった。
「立てるか、桃李。
嫗を呼んで、儀式の続きを、」
「その必要はありませんよ、騰礼様。
先程、天帝よりお言葉を賜りました。」
突然、襖の外から声がかかった。
「ばーちゃん!」
「目が覚めたのね桃李!良かったわぁ。
話は後でするから姿見の奥に、着替えがあるわ。
用意ができたら、家までおいでね。騰礼様も。」
「うん!」
先に戻るわと言うと、祖母の足音は遠ざかっていった。
だが、元気が良いのは
全力で見せかけた返事一言だけだった。
腰は痛いし、全力疾走した程に身体はへろへろ。
喘ぎ過ぎて、声がもう枯れてきてるなんて言えるわけが無い。
「騰礼、着替えてこいって。」
「あぁ。」
「取ってくれない?
俺、まじで歩けたらキセキな位足腰立たない。」
「あぁ。」
「... ... 騰礼、話聞いてないだろ。」
「そうだな、口付けをもう一度しよう。
それから、向かえば良い。」
「は?」
ドサッと、何かが倒れた音がした。
"また俺か!"と思ったが、
桃李は何処も痛めたりしなかった。
頭の後ろと、腰をしっかりと支えられながら
押し倒された。
騰礼の必死な顔が、直ぐそこまで迫っていた。
先程散々に味わった唇が、触れる。
「ん、ふ...っ、ぅあ...ぁアッ!」
啄ばむようなキスが、次第に淫らな音を立て
桃李の頭がぼーっと、し始めた頃
騰礼が"気"を吸い取った。
唾液を流し込まれるのは、媚薬効果だけで済むが
"気"を吸われるのは、良くなかった。
少し吸われただけで、イキそうになるのだ。
「も、あう、吸うのはダメだ、無理っ!」
「分かっている。
だが、もう少しだけ、俺の色でいてくれ。」
「へ...っ、ひ、ぃクッそぉ‼︎」
無い胸がときめいた途端、暴言が口から出た。
身体はまたもやビクビクと、跳ね
着替える前にもう一度、ぴゅっ、と少しだけ精が溢れた。
「敵の口車に乗るな、桃李。」
甘く囁く男の顔をギッと睨んだ桃李だったが、
予想に反して
出逢った時に険しかった、
眉間の皺や鋭い目付きが消えていた。
予想に反して
この男は、優しい表情をしていたのだ。
怒る気など、途端に消えてしまった。
それから、片付けをし、着替えを終えて
"優しい男"にお姫様抱っこされ神社裏の家へと帰った。
ともだちにシェアしよう!