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第18話

「ふ、ふ...っ、ん。」 先ず、口付けてきたのは背中にいる 騰礼だった。 それから、シュルリと浴衣の帯が解かれ 左にいた耽淵が、脇腹を舌でなぞる。 「ぁ...くすぐ、たぃ耽淵ん、んんっ!」 だが、胸の飾りを指で摘まれそうも言っていられなくなってきた。 「良さそうだな、お姫様。 オレにも、お前の蜜を味わわせろ。」 言うよりも早く、 義栄の手が桃李の下肢を握る。 同時に降ってきた口付けは、 噛み付くように強引で 口腔全てを強引に太い舌で擦られる。 逃げて下がっていた桃李の舌も ズルリと絡め取られ、 キツく吸われてはジン、と痺れさせられた。 「ぎ、えぃ...」 「オレとの口付けはイヤか? だが、お前のココは蜜を垂らしてる。」 恥を隠しもしない言動に桃李は、 嫌々と横に首を振るが 義栄の舌は、じゅるりと桃李の下肢を吸い上げた。 騰礼の愛撫とは違いすぎる力加減と 流れの強引さが 桃李を微かにだが不安にさせ始めた。 それでも構わず義栄は 敏感な反応を見せる裏筋を責め、 時には軽く歯を当ててくる。 「嫌だ、そこ、きつぃ...っ、義栄、」 まるで暴力の様な快感が 次から次へと押し寄せてくる。 だが、そんなものは必要無い。 そこに、愛がなければ、 これはセックスでは無いし 1人善がりの行為ならば、 マスターベーションだけで事足りるだろう。 「兄貴、桃李を見ろ。」 ふと、空気が鋭く揺れる気配がした。 「あ?」 「桃李が、泣く。」 騰礼が唸る様に声を上げ、 答えた義栄も、喧嘩腰。 だが、普段弱気な様子の耽淵でさえも、 この空気に語気を強めている。 「...え。」 気付いていないのは、本人と義栄だけだった。 まだ朱色の瞳に、たっぷりの雫を湛え 驚きと共に瞬いた瞳から ほろり、と涙が一粒零れ落ちた。 「ぅ、え...な、んでっ、」 自分が流す涙に気付いた桃李だったが 止めどなく溢れて溢れて、溢れて。 一向に、止まる気配が無い。 何故、泣いているのか。 何が悲しくて、涙が出るのか 分からなくても涙は出るのだ。 「ふ...ぅ、うっ、」 止まらない涙に、目を擦り続ける桃李。 柔らかな声で名前を呼んで、 頭に幾つも口付けを落としてくれたのは、 耽淵だった。 それから、肩や首筋、うなじに騰礼が口付け、 仁嶺は、深く身を屈めて 桃李の足の甲へと口付けを落としていった。 そこにあるのは、確かな愛だった。 ただ、義栄だけが持ち合わせていなかった物。 いや、20数年で身に潜む穢れに蝕まれ、 持っていることに気付いていなかっただけかも知れない。 欲望や、絶望、虚無感は無意識の内に 心を翳らせる。 「ぎ、ぇぃっ...義栄っ、」 どれ程、そうしていたのか ポロポロと落ちていた桃李の涙は やがて龍たちの口付けの波に掠われ 落ち着きと、幸せを取り戻していた。 残る不安を持つ者は、西の義栄1人だけ。 その義栄に、桃李は手を伸ばした。 名前を呼び、余りある愛を心から沢山込めて。 「オレ、は...、」 「キスしよ、義栄...お前と俺でありったけのキスがしたい。」 少し腫れてしまった瞳は、もう 怪訝さも、怯えも少しも写ってはいなかった。 ただ、愛おしい瞳のみが義栄を見ている。 「義栄、口付けの誘いを断るなら わたしが代わるよ。」 聞こえたのは、短い舌打ちだった。 それから、桃李は腕を引かれ顎を持ち上げられ 誰かと視線が、絡み合った。 そこにあったのは、シルバーの煌めく瞳。 猫の様に丸く、宝石の様。 「ぎ、ぇ」 「喋るな。」 紡いだ言葉は、途中で遮られたが 代わりに唇に与えられたのはしっとりとした熱。 柔く、静かに重ねては、僅かに離れ また擦り寄る様に口付ける。 やがて、声もなく尋ねる様に桃李の唇が 舌先でノックされた。 それを、当然のことの様に薄く唇を開き 彼の熱を招き入れた。 一瞬触れ合った舌先は、すぐに離れ 距離を確かめ合っている。 おずおずと、伸ばされる舌を そっと受け止める桃李。 そのまま絡ませ、 義栄の舌をそっと、吸い愛撫した。 すると、舌先からピリッと熱が走った。 それはまるで、金属の風鈴の音の様に 澄み切った確かな熱を走らせた。 「ぁ、義ぇ...ぃ、」 「オレの気を飲んだのか。」 「ん...ピリピリするっ。」 「...嫌か。」 そう尋ねる義栄の表情は、堅く翳っていた。 「嫌じゃ無いから、さっきのキスもう一回しよ義栄。」 桃李は、恥じらいながら微笑んで見せた。 その瞳を愛しい龍の色に変えて。 「オレの色だ。」

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