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第36話

「...もういいだろ、笑うなって。」 本人は堪えたつもりだろうが、 まだ小刻みに肩が震えている。 それでも桃李の周りには義栄の"気"が漂って ふんわりと包んでくれている。 普段はこうも意識出来るほど 濃く"気"を出す事は無い。 常なら、龍がそこを歩くだけで清められる。 だが、穢れに触れる彼らの心身は 確実に消耗されてしまう。 そんな彼らの"気"を癒し整えるのが 仙桃妃の役目。 「方法は二つだ。」 一つ、龍が仙桃妃の"気"を吸う。 一つ、仙桃妃が龍に"気"を与える。 「なんか違うのか?」 「目的は同じだな。 お前がオレらに"気"をやるだけの話だが、 お前が自力で出来るかどうかによる。 「ん...?」 「バテるなよ、姫。 これは色んな意味でキツイ。」 「ちょ、な...ん、ンんんんっふぁ」 突然の口付けに、驚く桃李だったが 強引に押し入ってきた分厚い舌が、遠慮なく桃李の上顎や歯列を擽り驚いて引っ込んだ舌先を招き出してはキツく吸い唾液までも啜りとられてしまった。 「な、ん...、だよ!」 「文句は後にしろ。」 そう言う義栄は、 どこからどう見ても余裕な顔をしているのに 一方の桃李は早くも身体が反応し腹の奥に熱い"気"が息付き始めていた。 「しっかりしろ。」 こんなイヤラシイ熱に浮かされた身体で、 何をしっかりしろ、と言うのか。 「鼓動が少し速いな。」 「緊張してるんだよ、!」 あんなキスをされて速くならない心臓なんて ある筈がない。 ましてや、彼は夫で桃李を愛して止まない男だ。 「お前は分かりやすくて良いな。」 「虎徹も分かりやすいだろ。 今日、散歩に行ったら 嬉しそうに走り回ってた。」 「あぁ、最近は跳ねなくなったな。」 義栄が、微かに微笑みながら言う。 つい春先までは、 少し不器用に走っていた虎徹を思い出す。 「まだ、たまに後ろ足が跳ねてる。」 「一応は上達している様だな。」 言葉を交わしながら、辺りに漂う義栄の"気"が じんわりと桃李の全身を包む様に広がり背中や足先までも覆っていく。 「ここから、 オレの"気"をお前の中に流し込んでいく。」 途端、両手の指先をピリッとした小さな雷が走っていく。それは指の神経にダイレクトに触れてくる愛撫だった。 「ん... ...っ、ふ」 「耐えろよ、感じてる場合じゃないぞ?」 シナプスがパチパチッと弾ける様だ。 指先、爪、爪の甘皮、指紋の一筋にまで広がっていく小さな雷はやがて皮膚から血管を巡り桃李の全身を余す事なく痺れさせていく。 何処かで覚えのある感覚だと思うと それは、アイスクリームだった。 一時期口の中でパチパチと弾けるアイスが、 流行って桃李も夏祭りでよく祖父に強請った。 あのアイスに似ている。 甘くて楽しくてクセになる感じだ。 何より、この男が自分の皮膚の下、 血の一滴にまで隈なく染み込んでくる様な気配は堪らなく桃李の神経を蕩けさせていく。 「ぁ... ぁれ...。」 とろり、と 蕩け始めていた思考が突然クリアになった。 何故かと、目をやると2人を繋いでいた手が離れていた。 あんなに身体中を満たしていた義栄の"気"が指先から瞬く間に引いて忽然と居なくなってしまう。 「ほら、やってみろ姫。」 「ん...、」 それに、なんか胸が切ない。 だが要領は分かった。 コツはやっぱり想像力。 そして、それを可能にする呼吸と得意の集中力。 桃李は深く息を吸い肺から空気を抜いていく。 同時に頭の中も空っぽにして またゆっくり息を吸って、次に吐くこの瞬間。 自分の吐く息が、義栄の指先へやんわり溶け込んでいく姿を鮮やかに想像する。 すると、ふわりと桃李の指先を薄桃色の気配が泳ぎ浮かび始めた。 その内じんわりと薄桃色の空気が義栄の指先へ移って行くに任せ彼の掌を撫でるとそこから更に薄桃色が溶けていく。 "本当に、溶けてる...っ、?" 「... ...く、」 ふと、耳元で感じる義栄の吐息が、 荒く息を詰める気配がした。 桃李が感じたあの弾ける感覚をこの男も味わっているのだろうか。 「上手いな、流石オレの妻だ。」 「そうかよ。」 素直に嬉しい、と言えば良いのに 桃李の口はつい素っ気ない言葉を放ってしまう。 彼の口から溢れるあまりに甘い声に 集中力がぷつりと途切れかけているのだ。 「照れてるだろ、姫?」 ギクリと肩が跳ね、義栄が小さく笑う。 彼は桃李の事など全てお見通しのようだ。 途切れる集中力で揺れる"気"を注ぐ桃李の指先毎、背後から全身全てを抱きしめられた。 「もっとオレを満たしてみろ。」 ◯◯◯◯◯◯◯ 「あぁ... ...義栄...っ、」 四龍に求められたら桃李は断れない。 もっと"気"を注いで肌や皮膚よりも深い場所からこの男を満たしてやりたくなる。 「義栄...」 それなのに、"気"を<注ぎ続ける>という行為は かなり困難だった。 おまけに、"気"を注ぐ度桃李の胸の中を 酷い切なさばかりが騒ぎ立てている。 怪我をしたわけでも、 何か泣きたい事が有ったわけでも無いのに。 「義、栄...っ、義えぃ、なんかおれ...へんだ」 自分でも分からないまま、義栄の名前を呼ぶと 握り合った両手が素早く解かれ 背中を預けていた胸に正面から抱きしめられた。 「どうした。」 「義栄...っ、」 向かい合わせで義栄の膝の上に乗ると、 何時もより近くで義栄の瞳とかち合った。 慌てて視線を逸らそうとした桃李だがその顎をしっかりと指で掴まれた。 「口開けろ、桃李。」 「え、ぁ、ふ...ぅっ」 突然名前を呼ばれた、と思った瞬間 強引で容赦なく深い口付けが寄越された。 忙しなく舌が絡んで吸い付いては、擦り付けて 丹念に互いの咥内を味わった2人分の唾液が桃李の口の端を濡らすと、漸く熱の篭った口付けは止み、咥内に残った唾液全てをこくり、と桃李は飲んだ。 「ん...ふぅ、」 身体中を駆け抜ける快楽が 鼻に抜ける甘い声を零させる。 甘くて熱い 桃李の為のとっておきの蜜の味がする。 この龍の唾液は、 仙桃妃にとって只の唾液では無い。 甘い甘い身体を熱くさせる秘密の蜜。 そして仙桃妃が快感に染まるその姿こそ、 龍にとっては至極の宝。 「どうだ?」 「え、」 「機嫌は治ったか?」 「... ...ぁ、あ、うん。」 言われるまで気付きもしなかった。 あんなに胸を苦しませていた痛みが薄れている。 胸も心も羽のように軽い。 それに、口付けのせいかほんのり肌が熱い。 「全く、お前は手が掛かるな桃李。」 言いながら義栄の指先が、 桃李の濡れた唇を拭う。 「大昔だがオレたち四龍は元は只の龍だった。 チカラばかりが強く気性が荒い生き物で、 地上を荒らした事もある。 そんなオレたちを唯一和らげるものがある。 さて、なんだろうな?」 「美味い飯!」 ドヤと笑った桃李だが、 ビシッと額に飛んできたデコピンに たちまち怯まされる。 「お前は、昔から手が掛かる。 石ころの時もよくオレの"気"を吸いそびれていた。いいか、減った分の"気"は必ず補給しろ。 そしたらもう、あんな顔しなくて済む。」 怯んだ隙にわしわし、と頭を撫でられる。 そしてふっ、と耳を掠めた単語に意識が止まる。 "今...何か不穏な単語が聞こえ無かったか?" 「な、なぁ...補給って、」 まさか、と言う前に唇を塞がれた。 ちゅ、と小さな音を立てて ゾクリとする低い声が鼓膜に吹き込まれた。 賢いな桃李ーーー 名前を呼ばれただけで、腹の底から快感がドクリと蠢きだす。 それを嫌じゃないと思う辺りで、 もうダメなのだと思うし桃李の勘はよく当たる。 「結局、かよっ、」 減った"気"を補給する為の手段は龍も仙桃妃も同じという事だ。 「持ちつ持たれつ、と言え。」 仙桃妃は四龍の唾液と、 淫らな務めで"気"を補給する。 その"気"を四龍が吸い、彼らの中の穢れを払い、乱れた"気"を整える。 この持ちつ持たれつサイクルが、 最高に効果を発揮する手段こそセックスなのだ。 怠れば、天界のみならず地上にまで穢れを蔓延させてしまうかもしれない。 四龍の役目は、天帝の愛する地上の生きもの全てを穢れから守る事。 その助けとして、妻の仙桃妃が創られたのだ。 「バカ、」 そう呟いて目の前の肩に縋り付くと そのまま柔らかい枕へ押し倒され、 いよいよお役目という名のセックス が始まる。 「んふ...ふ、ぁ、あ」 忙しなく舌先を絡め吸い合いながら桃李は夢中で 自分にのし掛かる男の上衣を肌消させていく。 そのまま下着も取り払おうと指を引っ掛けたが 思いがけず、その手を取られ自分の下衣へと押し返された。 「桃李。」 脱いで見せろと、言っているのだ。 抵抗しようとしても、全てこの男の腰に響く声に封じられてしまう。 おずおずと、桃李は自分の下衣に指を掛ける。 その様子を義栄の大きなシルバーの瞳がじぃっ、と見ていた。 「オレにお前の恥ずかしい所を見せてみろ。」 カァッ、と羞恥に頬が染まる。 女でも無いのに恥じる必要は無い、 とは思えないのだ。 好きな男に、発情した自分の身体を見られるのは恥ずかしい。 「義、えぃ...」 焦らせば焦らすほど、 胸の中で妙な興奮が蠢いてしまう。 震える吐息を零し、下着毎そろりと下ろすと、 下肢が新鮮な空気に触れヒクリと震える。 それだけで、 桃李の下肢は精を散らしてしまいそうだ。 思わずはぁ、と熱い吐息を吐きながら唇を噛んで上衣にも手を掛ける。 ぱさり、と全てを脱ぎ捨てる頃には すっかり腫れた乳首がいやらしく主張していた。 早く、この男が欲しいーーー すらりと伸ばした腕を逞しい義栄の首に回し すっかり硬くなった乳首と 涎を垂らす下肢を身を捩って見せ付ける。 「オレが欲しいか?」 「... ...欲しいのは、そっちだろ?」 男の逞しい身体の下で桃李は、 ゆらぁと腰を前後に揺らす。 まるで、義栄の剛直を受け入れた様な動きをして卑猥に男を誘う。 「上等だ。」 「ん、ンふ...ぁ、ぁ...あぅ!」 ずるりと舌舐めずりをした義栄に荒々しい口付けをされる。 そのまま尻たぶを手荒く揉まれ、 それだけで、桃李の後孔はヒクリと反応する。 「ぁ、あ、あ...んっ」 そんな反応を見透かす様にトントントン、と指の腹で後孔をノックされる。 義栄がするこの愛撫が酷い。 桃李の理性を削り、欲情のまま乱れたくなる。 「あぁ...指に吸い付いて来るぞ。」 ただ押し当てられただけの指を、早く咥えたくて吸い付いてしまう。 「ふ...っ、ン、はやく、義栄」 早く欲しい。 早くこの身体いっぱいに義栄を埋めて欲しい。 それで切ない胸が満たされるのだ。 それなのに、まだ添えられたままの義栄の指に我慢出来ない。 腰を揺らして自分から押し付ける。 すると、思いがけずこれがぬぷりと沈み込み 待ちわびた刺激がゾクゾクとナカから押し寄せてきた。 「ぁぁ...は、ぁあん!」 痛みも抵抗もなく受け入れた義栄の たった一本の指が堪らなく気持ちいい。 「...んぁ、あ、あ...あく、ン」 容赦なくナカを擦り上げる指が、気持ちいい。 気が付けば、指は二本になり、三本までもが挿入されていた。 夢中で指を感じるうちにたぷたぷと尻が上下に揺れてしまう。 「もっと...シて、」 すっかり解けた理性で素直に強請れば、 義栄の熱い口付けが降って来る。 そのまま逞しい手がグッと尻を掴んで割り開く。 その僅かな痛みすらも今は感じてしまって、いやらしい後孔は反応してしまう。 「桃李。」 「うん...ンっ、?」 「また、腹一杯にしてやろうか。」 そう言って義栄がぐっ、と桃李の腹を押す。 その仕草だけで嗚呼、と桃李は下肢を震わせる。 あの日の激しいセックスを忘れられる筈がない。 たまに思い出すだけで 身体中から熱の篭った溜息を吐いてしまう。 ひたすらに求められ、応え合ったあの行為は 宝珠であり仙桃妃である桃李の意義を 強く認識させてくれた。 あの時、誰に言われるでもなく桃李はこの男を満たしてあげたかった。 ただ食って"気"を正すだけの仙桃が 人の心と身体を持った意味がそこには有った。 「あの時は出来なかったからな?」 「ん...?」 必死にしがみついた義栄から妙な気配がした。 ぞわり、と辺りに漂い始めたのは義栄の"気"だ。 "イヤな、予感がするーーー" 「なぁ、桃李。 オレの頼みを聞け この男が、こんな風に名前を呼ぶ時大抵は碌な事が起きない。 そして、桃李の勘はよく当たる。 ◯◯◯◯◯◯◯◯ 「はぁ...は、アァ、ぁあー!」 目の前には憎たらしいほどムカつく 端正な男の顔がある。 四龍の末っ子で 猫の様な瞳とシルバーの癖毛の持ち主。 その人は今、首筋に汗を流し逞しい腹筋と情熱的な腰の動きで桃李を揺さぶっていた。 ーー桃李。 好きな男の声が、 自分の名前を甘えたように呼ぶ。 それは、傲慢な口に似合わず優しい男のなんとも賢い手法だった。 "分かってた、けど、!" こういう時、自分に勝ち目はないという事を この一年足らずで桃李はたっぷり学んだ。 龍に求められれば桃李は、拒めない。 その優しさで以って、 龍を助け癒すのが桃李の仕事なのだ。 「ぁ...ぁ、ヤだぁ、ああっ」 目の前に鮮やかな赤や青の閃光が駆ける。 義栄の言う"あの時は出来なかった事"が駆使され 桃李の下肢は先端からとろとろと蜜を垂らし続けている。 「オレが分かるか。 お前のココを虐めてるやつだ」 こくこくと頷きながら、身を捩りそうになるのを 義栄の左手を握りしめ何とか耐えるが、 口から出る声はひっきりなしに喘いでばかりだ。 「それ、やだ...やだぁ、ぎえい... ...やらぁ」 やがてあまりの感覚に耐えきれなくなり いやいや、と両手を付いて義栄の胸を押しやろうとしたら逆にその手を一纏めに掴まれ、腰を強く打ち付けられた。 「ぁあっ、あ、ぁあ!」 ビクビク、と 後孔をキツく締め付けて桃李はイッた。 それなのに、 まだ義栄の"気"はソコヘ注ぎ込まれてくる。 「もぅ...っ、それやめろよぉ、」 「無理だ。」 「ひ... ...ンっ、!」 桃李が感じれば感じるほど、仙桃妃の"気"は高い浄化力を発揮する。 薄桃に色付いた肌はまさに薄桃色。 溢す蜜も甘さを増していく。 「あひ、今...っ、いまはやだっ、やら...っ、またイクっ、!」 「好きなだけイケ。」 興奮で熱く掠れた義栄の声が言う。 ぐちゅぐちゅ、と 後孔からは卑猥な音が響いている。 濡れた尻といきり勃つ剛直の絡み合う肌の音が、 義栄の"気"を注がれる桃李の思考をどろりと溶かしていく。 「イイ...きもちい、ぃ、ぁはあ、ン」 なんとか、義栄の背にしがみついて 夢中でナカを責めてくる剛直を味わう。 「義栄...っ、義えい、」 確かにこの肌は、自分のもので しがみつくこの男の肌は義栄のものなのに。 覚えたばかりの技で、"気"を送り合う行為は まるで、お互いがひとつになってしまったような感覚に陥らせる。 「クセになりそうだな。」 ソレは指を蕩けた孔で咥え込み、 味わっている最中 不穏な雰囲気を露わにした義栄が桃李の身体を"気"で包み込んできたのた。 その後はもう、あっという間の出来事だった。 桃李の身体隅々にまで行き渡った義栄の"気"が シナプス全てを刺激するパチパチ感で桃李の思考と身体を蕩けさせる。 すうっ、と小さな糸ほどの細さになり 桃李の蜜を垂らす先端へ、次から次へと注ぎ込まれていた。 それどころか、時折ズルリと引き抜かれたりもして今、桃李をとことんまで責め抜いている。 「またいいか、桃李」 限界まで腫れた義栄の剛直が、 再度弾けようとしている。 桃李は夢中で頷いて早く、と囁いた。 「あぁ、腹一杯食わせてやる...っ、ぐ」 義栄の身体が ぐっと強張り桃李のナカを深く穿つ。 太い亀頭が、桃李のイイトコロを突く。 その度に堪え性の無い桃李の身体は 律動に合わせて先端からびゅ、と 蜜をはしたなく零してしまう。 「ぁ、ああー、でて、るっ、で...るぅ」 しかも、止まる気配が無い。 義栄が腰を打つ度に出る蜜は、 もう透明になっている。 「嗚呼...いいな、」 義栄のシルバーの瞳には何時になく淫らな妻の姿が写っていた。 まるで、漏らしているかの様な痴態を晒す 桃李の愛らしい姿を。 尻には太い剛直を懸命に咥えて、 もう食い切れない白濁が垂れてきている。 それなのに、先端からはとろとろと涎を溢して まだ、義栄を欲しがっている。 "心なしか、腹が膨れたか?" 義栄は、自分の口元に つい意地の悪い笑みが浮かんでしまう。 桃李はもう体力の限界を超えており、 意識すら危うい。 はじめて責めた小さな孔にも良く応えてくれたが まだまだ、この男は満足していなかった。 「桃李。」 「は...な、にぃ?」 「腹がパンパンに膨れてるぞ。 流石にこれは孕んだかもな?」 言いながら、剛直をゆすり腹を撫でてやると 桃李は驚く程ふわりと甘く柔く微笑んだ。 「そうかなあ」 義栄はすっかり毒気を抜かれてしまった。 虐めてやろうと思ったのだが、 まさか、これ程までに心を掻き乱されるとは。 桃李は 腹をさすってふにゃ、と笑っている。 「お前は、本当に可愛いな桃李。」 間延びした声で、桃李が聞き返して来る。 その声すらも蕩けて甘くて、可愛い。 かつてこれは、意思も無くただ貪欲に龍の"気"を欲する只の石であったが、それが今や、こうだ。 義栄に応え、愛というものを全身で教えて来るこの生き物を、龍たちは夢中で愛さずには居られない。 "本当に孕ませてしまおうか。 麒麟か、天帝に頼めば何とかなるのかーーー" 脳裏に描いて見る薄桃色の子虎は、愛くるしい。 やがて人型をとる様になれば、 桃李に負けず劣らずーーーー 「義栄?」 ふと、桃李の声がした。 見下ろせば、桃李の手が腹から自分の頰に伸ばされる所だった。 「こんな時に、考え事か、よ、?」 そのまま億劫そうに義栄の首に腕を回し 起こしてやると、繋がったままの下肢がぞろりと位置を変えて義栄の腰に跨った。 「別に、欲しくないわけじゃない、けど そんなに子供好きだとは、知らなかったな。」 にっ、と笑う桃李は何処か得意気だ。 「オレも驚いてる所だ。」 「今日はもう、止めとく? おれは別にこのまま、 子供の話してても全然良いけど?」 言いつつ、義栄の首筋に顔を埋めて来る。 擦り付けてくる鼻先が少々擽ったいが、 そのまま桃李の乱れた髪を撫で付けてやる。 「腹は満たされたか?」 「その言い方ムカつく、変態くさい。」 「好きだろ?」 好きじゃない、と言い 目の前の太い首に桃李は軽く歯を立てる。 びくり、と反応したのは義栄の方だった。 思いがけない反応に気を良くした桃李が、 したり顔で義栄の顔を覗き込む、とそこには 猫の様に大きなシルバーの瞳が、 じっとりと激しい欲情を見せていた。 「ぇ、なんで...ンっ。」 しかも、銜え込んだままの剛直が太くなる。 動揺したまま、義栄に尻を強く掴まれ身を捩る。 そんな刺激だけでも、桃李のナカは蠢いて まだ深く繋がっている剛直に吸い付いてしまう。 「先にお前を嫌というほどイカせてから、 また、たっぷり腹のナカに掛けてやる。 次いでに、生意気な口も塞ぐか?」 なぁ、桃李オレの願いを叶えてくれるだろー? 凶悪な程ニヤリと笑う男は、 また優しく桃李を撫でる。 勿論、四龍に強請られて桃李が拒める訳もない。結局熱い口付けと、 蕩けるような愛撫に絆され 漸く義栄の愛液が腹の最奥に注ぎ込まれると 気を失う様にしてゴットリと気を失ってしまった。 「やり過ぎたか。」 それは、聞き慣れた穏やかな声と 優しい手付きで、 桃李の頭を撫で額にキスを落としていった。 穏やかな心地良い眠りの中、 桃李はふと、夢の中で誰かに名前を呼ばれる。 "さぁ、起きて" 聞き間違いかと思ったが、 また同じ声が呼びかけている。 "起きて、こちらを見なさい" 何処からか、 真っ暗闇の中から桃李を呼ぶ声がする。 ぱっ、と辺りを見渡すが やはり真っ暗でよく分からない。 夢の中だからそんなものなのか。 それにしては、やけにねっとりとした 思い空気が全身に纏わりついて来る。 "なんか、へんだ。" 暫く歩いてみる。 真っ暗な中でも何故か行き先は分かる。 呼ばれているのか。 何処からか水音も聞こえてきて、 少しだけ涼しい気がする。 ふと、眼前に洞窟が見えてきた。 暗くて中は見えないがこれは夢なのだからと思えば、不思議と好奇心が湧いて薄暗い洞窟に入ってみる。 一歩、また一歩と進むうちに 肺が痛くなる思いがする。 空気だけがやたらと重いし、息が苦しい。 いつの間にかカラン、と音がして 手元を見てみるとそこには、 いつの間にかランタンを持っていた。 それを薄暗い洞窟にかざしてみる、 とそこには桃李のよく知る女の子が居た。 「桃李さん...っ、何故ここに!?」 「へ、ぇ...鈴、!? どうしたんだよ、何でそんなとこ、に」 ガシャン、と鉄が軋む音がした。 黒く錆びた鉄格子と同じ黒の足枷が ころころと軽やかに笑う鈴を閉じ込めていた。 「いえ、逃げて下さい!」 「へ、?」 その声が夢とは思えない程リアルに 桃李の鼓膜に響いた。 「ど、ういう事、これは夢じゃないのか?」 「只の夢じゃありません、! 良いから急いで、目を覚まして...アイツらが来てしまうっ、」 一体どうしたらいいのか、 只の夢じゃないと言われても 全く持って理解出来ない桃李は、 唖然として立ち尽くす。 すると、鈴が一際鋭い声を上げた。 「桃李さん、後ろッーーー!」 「ヒ...ッ、」 血の気の引いた時にはもう遅かった。 背後に誰かの気配がした。 夢にしてはリアルな息遣いで、 桃李はソイツに呼ばれた。 「おはよう御座います仙桃妃様。 またお会いできて光栄です。 とは言っても、 貴方の体はまだ眠って居ますがね。」 それは、監獄に収容された筈の、 かつて議会長にまで昇り詰めたあの男だった。 髭も無く、頬は痩せこけているが、間違いない。 この声と歪んだどす黒い瞳を桃李が見間違う筈がない。 「ダルム・イシュタット。」 「そう言う貴方様は、 薄汚い蛇の眷属、龍の哀れな慰み者のお姫様。 天塚桃李様。」 呑まれてはいけない。 桃李の本能が、そう叫んでいる。 「鈴に何をした。」 唸る様に問い詰める桃李に、 ダルムはおや、と片眉を上げて見せる。 「小娘だけではありませんぞ? あの薄暗い王の金魚の糞までおりますが、気付きませんでしたか?」 ハッ、として桃李は 鈴の囚われている洞窟の中を見る。 鈴が視線を寄越した先には、 無残にも斬り付けられ辛うじて息をしている義栄の側近の姿が有った。 「意外としぶとい男です。 いくら痛ぶってもあの生意気な目が陰らないのですよ、私はつまらなくてねぇ。」 まるで、愛猫が懐いてくれないとでも言うかの様にダルムは話し続けるが、 その手が突然桃李の頬を張る。 パンーーー、と乾いた音が洞窟に響く。 男がとても愉快そうに笑った。 「これは夢ですよ仙桃妃様。 こうして頬を張られても、 全く痛くないでしょう? しかし、貴方の可愛いお友達は違いますよ。」 ザリザリと、音を立てて 男が洞窟の檻の中へと近づいて行く。 「目を覚まして、お伝えください。 愚かな年寄りが、盲目な王に反旗を翻し貴方の子飼いを痛ぶっていますよ、と。」 "目を覚ませ、聞こえるか、桃李っ、!" パチン、とダルムが指を鳴らした。 すると、何処からとも無く頭の中に煩いほど義栄の声がして <目を覚ます>と、シルバーの見慣れた瞳と目が合った。 「桃李、起きたか!? オレが分かるか、!」 頬をゴシゴシと強く撫でられる。 物凄く目蓋が重く、あっという間に眠気に襲われる。 「起きろ、桃李!」 ペチペチと頬を叩かれて、ふと意識が浮上する。 「鈴、と常秋、が捕まって...た、ダルムがいた、んだ」 ぽつりぽつりと喋る喉が、不意に詰まる。 何かと思えば、嗚咽を漏らしていた。 自分が泣いているのだと気付くのに、漸く気付く。 「常秋、さ、が...ぼろぼろで、痛ぶる、て...アイツ、」 「場所は分かるか、桃李。何が見えた?」 グッ、と強く左手が握られる。 その手は義栄の手だった。 その手の温かさだけで、また涙が溢れ出てしまう。 「洞窟、に、いて...っ、鉄格子が嵌ってた。 あと、水の音がして、鈴が、逃げろって言ってた、」 「よくやった、桃李。」 義栄の右手が、桃李の涙を拭う。 「あとは任せろ。 アイツらは、無事に戻る。」 「だめ、だ、!」 桃李は咄嗟に義栄の襟を掴みかかる。 みっともなく震える手で、しがみつく様に襟を引く。 「アイツは義栄を、狙ってた、 義栄に反旗を、ひるがえすって伝えろ、て」 「狙いはオレか。」 ダルムが標的にしているのは間違いなく、義栄だ。 鈴と常秋はその餌にされた。 そんな所に、この男を向かわせる訳にはいかない。 シルバーの瞳を怒りにギラつかせた義栄を 今の桃李では留めることは出来ない。 襟を掴むだけでも、精一杯なのに。 "誰か、義栄を止めてくれ" その時だった。 隣の部屋から聞き慣れた悪友の声がした。 「せめて、一晩は様子を見てくれませんかね? それでそこのお姫様も連れて行ってやって下さい。」 「友康、」 二人の寝室に堂々と入って来て、 義栄をひたと見据えて言う。 その瞳は、黄色に淡く光っていた。 「お前も随分殺気立ってるが。」 「当たり前でしょ、 こっちは何日も前から行方を探してるのに 鈴からの連絡は途絶え、気配も追えない。 その最中、桃李を狙って不穏な気配がこちらの部屋からしたもんだから、 これでも慌てて駆け付けたんですよ?」 「桃李が手掛かりを得た。水のある洞窟だ。」 ギシ、とベッドのスプリングが鳴る。 どうやら友康までベッドの端に腰掛けた様だ。 「桃李を連れて行った方がいいと思いますよ。」 この3人でベッドに座ったのは、 つい最近だった筈だが、あの時とは少し空気が重い。 「あの爺さんひとりで、 桃李の夢を渡れる筈がありません。 出来るとすれば、心当たりは限られていますよ。」 「あぁ。奴等だろうな。」 二人の会話に桃李は付いて行けなかった。 義栄の手が心地よく頭を撫で しっかりと手を繋いでいるお陰で 治った涙の代わりに強烈な眠気がやってきた。 「よく休め、桃李。 起きたら忙しくなるからな。」 うん、と返事をしたつもりだが、 声になったかは分からない。 ただ、頭を撫でら手が心地よくて 今度こそ健やかな眠りへと誘われた。

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