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第42話
大きな石垣の門を抜けると、目に飛び込んでくるのは大きすぎる池。
その中央にぽつんとそびえ立つ五重塔が騰礼の部屋だ。
朱塗りの柱に黒の瓦が放つ何とも言えない威圧感は、既視感がある。
「あれだ、ボス部屋だな。」
「桃李さん...不謹慎です」
「いやいや、マジでアイツ今なら魔王レベルだぞ。」
ここに来るまで祝融が話してくれた内容は、こうだ。
騰礼は枯れかけた木を見るなり、その場で辺り一帯の穢れを炎で覆い尽くしたという。
ゴォオ、と燃え盛る炎は次々に木々を飲み込んだ。
炎が焼いた穢れは瞬く間に消え、跡には元の清しい木々が残されていた。
人知れず我知らず知らず知らずの内に生み出す穢れは、恨み辛み妬み嫉み、誰かの心のささくれが誰かの心をささくらせ、溢れた言葉か垂れた想いが地に染みて、水を吸うようにして毒を吸った。
地を穢した代償は既に支払った。
ひとりの龍に献身によって。
こんな大きな湖畔のど真ん中で、誰も足を踏み入れる事を許さない部屋で。
きっと、あの男は耐えている筈だ。
鋭利過ぎる眼差しと、整えられた顎髭が桃李の脳裏に過ぎる。
「今、行くからな。」
また、着物の帯に手を当てた。
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