42 / 44

第42話

大きな石垣の門を抜けると、目に飛び込んでくるのは大きすぎる池。 その中央にぽつんとそびえ立つ五重塔が騰礼の部屋だ。 朱塗りの柱に黒の瓦が放つ何とも言えない威圧感は、既視感がある。 「あれだ、ボス部屋だな。」 「桃李さん...不謹慎です」 「いやいや、マジでアイツ今なら魔王レベルだぞ。」 ここに来るまで祝融が話してくれた内容は、こうだ。 騰礼は枯れかけた木を見るなり、その場で辺り一帯の穢れを炎で覆い尽くしたという。 ゴォオ、と燃え盛る炎は次々に木々を飲み込んだ。 炎が焼いた穢れは瞬く間に消え、跡には元の清しい木々が残されていた。 人知れず我知らず知らず知らずの内に生み出す穢れは、恨み辛み妬み嫉み、誰かの心のささくれが誰かの心をささくらせ、溢れた言葉か垂れた想いが地に染みて、水を吸うようにして毒を吸った。 地を穢した代償は既に支払った。 ひとりの龍に献身によって。 こんな大きな湖畔のど真ん中で、誰も足を踏み入れる事を許さない部屋で。 きっと、あの男は耐えている筈だ。 鋭利過ぎる眼差しと、整えられた顎髭が桃李の脳裏に過ぎる。 「今、行くからな。」 また、着物の帯に手を当てた。

ともだちにシェアしよう!