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天使

「冗談キッツ!」 いきなり聞こえてきた大きな声にびっくりして身が縮む。 辺りを見回すと、昭和の香りがしそうな一軒家が現れた。 黒の瓦屋根、茶色の壁、黄土色の引き戸……その前にある木のベンチに誰かが座っているみたいだ。 「まぁ、元気でなにより。 大切な人のそばにいるなら幸せなんだろうな」 恐る恐る近づいていくと、低くて落ち着いた声がぼくちんをくすぐる。 「あ、忙しいから切るな……バイバイ」 イラついたように耳元から板を外し、だらんと右腕を下ろしたのは見えるのに、雨のすだれで肝心の顔が見えない。 「今さら現れたって……遅いんだよ」 俯いた顔を上げた瞬間、一筋の光がさして雨がその部分だけ途切れた。 艶のある黒のショートヘア、縁の細い眼鏡から見えるアーモンドの瞳、上下の白い服の男性。 ぼくちんは天使だと、一瞬でわかったんだ。 「すいましぇん、あの!」 君が虚ろな瞳でぼくを捉えたからちょっと後悔したけど、後には引けない。 「あの……雨宿りさしぇてくだしゃい」 人前では出さないようにしていた舌足らず全開の言葉で言って、ぼくちんは頭を下げる。 何も返答がなかったからゆっくりと頭を上げると、彼は左の口角を釣り上げて手招きをしてくれたんだ。

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