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第4話 異常な梅雨の始まり

「何だこれ…」 かごを持ち金平糖を集めようと外に出たイリゼは空から降るアメを見つめ驚いた。 「も降ってる?」 石畳の地面を叩きつけるのは、集中して見ていなくては見失ってしまうくらい少量の金平糖とだった。 世界中のどの町にも降るようなごく普通の雨。 そう、イリゼの髪と肩を濡らし、地面に小さな水たまりを作り出したのは、何の変哲もない水でできた雨だ。 足元に広がる水たまりは驚くほど鮮やかなものだった。雨と同時に降り注ぐ少量の金平糖と混ざり溶け、絵具のパレットのように地面を染める。 「イリゼさん、おはようございますっ」 「ハイラ、早起きだな」 「うん!コンペートウあつめるんだ!」 隣の家の扉から顔を覗かせた小さな少年にイリゼは目を細めた。 梅雨はカラメッラの人にとって毎年恒例の楽しみだ。 お気に入りの色だけをたくさん集めようとする人や、全色を集める人、アヴェルのように特定の色の効果を必要として集める人もいて、それぞれが思うままに楽しむ幸せな季節だった。 「今年はそうもいかないみたいだぞ」 「なんで?」 「雨が降って金平糖が溶けてしまったみたいだ」 「え!?」 「おい、走るなっ」 パタパタと玄関を飛び出したハイラを捕まえたイリゼは胸をなでおろした。 「雨のせいで地面が滑りやすくなってるから気をつけないと」 「わっ、ほんとうだ!みずたまり!?」 「ああ、梅雨なのにアメだけじゃなくて雨も降ってるな…」 地面に目をやれば淡い虹色の水たまりにポツンポツンと水しぶきが上がっている。 「おかあさんがもうすぐコンペートウはふらなくなるんだっていってたの」 「この感じじゃあ、来年には水の雨だけが降りそうだな…」 「そうしたらアヴェルさん、ずーっとさみしくてこまっちゃうね」 「ああ、そうだな…」 後ろを振り返り自分の家を見つめるとイリゼの心は絶望感で満たされていった。 ただでさえ金色の金平糖は激減していたというのに、金平糖が降らなくなり雨が降りだしてしまったら、アヴェルを笑顔にし幸せの温もりで満たしてあげることができない。 何とかしなければ。 ――アヴェルを守るのは俺だ。 「ねえねえ、イリゼさん」 「ん?」 「ふらないなら、つくればいいんじゃない?」 「作る?」 「うん!コンペートウをつくるの!」 「はぁ?」 「だって、コンペートウってあまいでしょ。あまいのっておかしでしょ。ママはいつもキッチンでおかしをつくってるよ!」 「んー…そういってもな…」 「だいじょうぶ!イリゼさんならできる!」 「おおう…ありがとう…そうか作ればいいのか…いや、でも、どうやって作るんだ?」 「としょかんにいけばだいじょーぶ!としょかんにはいっぱいほんがあるもん!」 「ああ、そうか、そうだな図書館に行けば答えが見つかるかもしれない……よし!ハイラ、ありがとう!行ってくる!」 「いってらっしゃーい!」 空から降りそそぐのは雨とアメ。 雨と混ざり溶けだしたアメに足を滑らせないように気をつけながらイリゼは図書館へと足を速めた。

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