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第8話

 それは、移動教室だった二時限目を終えて教室へと戻る時だった。 「なんか今日の和彦、えらく機嫌良くないか?」 「そんなことないと思うけど~」  言葉とは裏腹に、俺は自分でも語尾に音符がついているんじゃないかというくらいの上機嫌で答えた。  変なものを見るような目で千歳が言ってきたが、俺は気にしない。  今日は朝練のなかった亮太が朝に迎えにきたが、その時の亮太も今の千歳と同じような反応だった。 「朝、迎えに行った時からこの調子で気持ち悪いんだよ」  いつもなら腹の立つ亮太の言葉も、今日くらいは許してやろう。  それくらい俺の機嫌がいいのは確かだった。  理由は昨日の夜のナオとのセックスだ。  あの時間だけで、ナオは見事に俺の欲求不満を解消してくれたのだった。  ナオ……彼は危険な男だ。  一夜限りの関係を望む俺の心に自然と入り込んできた。  ナオから連絡先を渡された時も正直喜んでいた自分がいたのも事実で、決して連絡することはないとわかっていても、俺はまるでナオの特別な存在になったかのようで嬉しかった。  俺は女と恋愛が出来ない……。  だけど、男とも恋愛するつもりはない俺にとって、誰かの特別な存在になることなんてあり得ないから。  一時でも、そんな体験をさせてくれたナオには本当に感謝している。

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