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新しい恋の始まり

  「お世話になりました」 「水嶋……すまなかった」 「もういいんです。先生は先生の人生を」  最終日、担当教師としての笠井先生に礼は告げた。  冷房の切れた蒸し暑い校舎。    帰宅するために廊下をゆっくり歩いていると、黒崎が熱風と共に走ってきた。 「すごい汗だな、先生」  黒崎はぴたりと立ち止まり、僕の頬を伝う汗を指先で拾ってくれた。  教育実習中の身でありながら恋をしてしまった僕も、君の汗に触れてみたくて、そっと手を伸ばしてみた。  まだ……こんな風に触れちゃいけないのに、君の無邪気な笑顔が可愛くてつい。  僕は君と走り出す。  梅雨が明けた空の向こうに何があるのか。  君と一緒に見てみたい。  自分をずっと閉じ込めていた傘はもう、ここに置いていこう。  雨上がりの水たまりは君と一緒に飛び越え避けて、前に進んでいけばいい。  僕の人生は、まだまだこれからだ。  今年の梅雨明けは早かった。  僕たちの恋の始まりも早かった。  

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