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第4話
行為中に意識を無くすことはよくあるけど…
昨日のは行ってはいけない所に飛んだ気がする。
というか絶対入ってはいけないところに入った。
人体の不思議過ぎて怖い。
記憶に霞がかかってるのがなお恐ろしい…
目覚めて最初に思ったのはそんなこと。
そして珍しくニオアさんが横に寝ていた。
外はすっかり明るくなり、ニオアさんの閉じられた目の下には隈が…
あるような気もしなくないけれど…青くてわからない。
肌色が濃いと判別できなくて不便だ。
かたや僕の体のあちこちには花びらのような鬱血が目立つ。
どうやって隠そう…これはこれで不便だ。
真面目なニオアさんがこんな時間まで寝ているということは今日は久しぶりに休日なのだろう。
僕もだるい体をおこす気になれず、再び目を閉じた。
次に目を覚ますとニオアさんがお粥を運んできてくれる所だった。
ベッドから降りようとしたらそのままで、と止められた。
どうやら昨晩はニオアさんも無理をさせた自覚があったようだ。
ほっとする。
あれが普通だと思われたらいつか死んでしまう。
そして1日中布団につつまれて僕はとことんニオアさんに甘やかされた。
絶倫過ぎるところ以外は出来すぎなくらいい旦那様だと思う。
次の日の朝、ニオアさんは名残惜しげに仕事に向かった。
昨日は激しく抱かれることもなく、始終ゆったりとした1日だったので僕は腰の痛みも怠さもなく、元気そのものだった。
我ながら丈夫だなと思う。もしかしたらニオアさんに飲まされた謎の薬のお陰なのかもしれない。
「届けもんだよ~」
「はーい!!」
玄関から聞こえてきた声に返事をしてパタパタと小走りで戸をあけた。
いつも重い物を配達してくれる鬼人のリョクヒさんはそんな僕を見て怪訝な顔をした。
なんだろう?
リョクヒさんは見事な緑色の肌の緑鬼のお姉さんだ。ちなみに緑鬼はこの国ではちょっと珍しい。
鬼人の比率的に赤鬼が一番多い。
その次が灰色。赤、灰、青、緑、白の順番。
黄色はいない。
大事なことだから重ねて言うけど、黄色はいない。
くちばしの黄色い語尾にピがつく鬼は居ない。
あと、虎柄のパンツ一枚だけの赤鬼にはまだあったことかない。
というか、鬼人の服装は着流しなのでパンツ一丁で歩いたらヒソヒソされる位にはみんなちゃんと服を着ている。
ゆったりとした着方のせいでちょっと露出は多めだけど。
リョクヒ姉さんの胸も惜し気もなく晒される。そのどーんと目を引く豊かな胸元に僕はいつもどきまぎしてしまう。
豊かにうねる髪はポニーテールにされ、丸みのある2本の角が猫耳のようで可愛い。姉御っぽい感じの頼れる緑の鬼人さんだ。
それはともかくリョクヒさんは家の中に入りどんっと沢山の荷物をおいてくれた。
品物はいつもニオアさんが頼んでおいてくれる。
「あれ?イリヤ、昨日は旦那が休みじゃなかったのかい?」
「お休みでしたよ?」
リョクヒさんは奇妙な味のものを噛んだかのようにな顔をした。
「………なあ夫婦生活うまくいってないのか?相談に乗るぞ?」
ひどく心配げな顔をされ、僕の頭に?が飛んだ。
「旦那が休みの次の日の嫁はだいたい寝込むんだ。ほら、前の日のアレが激しいから…」
そう言われ、かあっ!っと顔が赤くなる。
「イリヤは新婚だろ?今日なんで寝込んでないんだ?ちゃんとやることやってるのか?昨日はどうしてたんだ?」
そう心配されて僕は既に赤い頬がどんどん赤く染まっていることが恥ずかしくて思わず頬をおさえた。
「えーっと…昨日はうちで二人でのんびりしてました…」
「のんびり?つまりどういうことだ?」
「つ、疲れてたので…しませんでした」
くっ…自分の性生活を女の人に話すなんて…
「なっ!?無し!?おいおい、なあ、ちゃんとやることやってるのか?」
リョクヒさんはひどく焦ったように僕の肩を掴んだ。
「 や、やってます…よ?」
は、恥ずかしい…だってこんなの、人に言うことでもないだろうし…
「鬼人は性欲が強いんだ、きちんと相手しないとすぐに娼館にいかれちまうぞ?」
「しょうかん?」
「知らんのか?商売女を金だして抱いてくる場所さ、西街の方がそうだぞ」
ニオアさんには治安が悪いからと言われてたから西街に足を向けたことが無かった。
あ、そうか歓楽街か。
そういうところは治安が悪くなるものだよね。
お金で女の人を買う…
ん?それはいわゆる風俗にいくということ!?
えっ!?
プロのお姉さんをニオアさんが買うの!?
「鬼人は1日に最低でも5回はするもんだぞ?いつもどれくらいなんだ?」
「えっと…2回か3回かな…昨日は無しでしたけど…」
そう答えた僕にお姉さんはなんてこった!!と頭を抱えた。
「そりゃ、お前さん…青の旦那は相当溜まってるぞ?いや、むしろもう他所にいってるんじゃないか?」
「ええっ!?」
「きっとイリヤは小さいし体力が無いだろうから気を使ってるんだよ…優しいいい旦那じゃないか。でもな、こういうことはきちんとしなきゃダメだよ、鬼人の男の思いやりほどアホなものはないからね」
そう言い切ってカアネさんは呆れたようにため息をついた。
「商売女相手でも浮気は浮気だときちんと言わないと駄目だぞ。自分が好きならよそに行くなと殴っとけ。なんだったらちょん切ると脅してやれ」
そしてお前も甘えすぎずにちゃんとやることはやるんだぞ!と言って仕事に戻っていった。
え、え?ええーーー!?
頭が真っ白になった。
順風満帆な新婚生活って思ってたのは僕だけってこと!?
旦那の風俗通い!?
浮気!?
ニオアさんを去勢しちゃうの!?
ひぃっ痛い!
考えただけで僕の玉がひゅんってなるよ!!
あわわわ、とパニックになりそうになったものの、まだ仮説でしかないと気づく。
いけないいけない。
取り乱してしまった。
そうだ、とりあえず浮気をしてるかどうかはまず調べないと…
そして、僕はその日からしばらくニオアさんの行動を観察することにした。
ニオアさんは夜に出ていき朝早くに家に戻る。食事と共に僕を抱いて、そしてまた仕事にいく。
3時頃に帰ってきてお菓子とお茶をつまみつつ僕を抱いてから仕事に戻る。
そのあとは遅めの夕食を食べる頃に戻ってきて僕を抱いて…真夜中にまた仕事に行く。
帰ってきて僕を抱いて、そのあと仕事に行って…朝食前のにまた帰ってきて…
って…あれ?
浮気する暇、なくない?!
むしろ、ニオアさんはいつ寝てるの!?
なんで僕、今まで全然気づかなかったんだろう?
ニオアさんの平均睡眠時間ってどのくらい!?
これヤバくない?
ニオアさん過労死しちゃうんじゃない?!
そう気づいた僕は浮気とかもうどうでもよくなり、今さらながらニオアさんに言った。
「ニオアさん、忙しいのだからそんなに無理して家に戻って来なくても大丈夫ですよ?」と。
するとニオアさんはサァッ顔色をいっそう青くして
「そ…そうか…」
とふらふらと仕事に向かっていった。
あんなに顔色を悪くしてやっぱり疲れがたまっていたんだろう。僕は今さら気付いて申し訳なく思いながらその後ろ姿を見送った。
その日、ニオアさんはお茶の時間に戻ってこなくなった。
焼いたタルトは無駄になってしまったけれど、やっぱり無理していたことが解って僕はほっとした。
あとは睡眠か…職場で少しでも休めているならいいんだけど。
その夜、いつもより早くに帰ってきたニオアさんは僕を抱き潰す勢いで抱いた。
ニオアさんはきっといつもより疲れなかったのかな…よかったよかったと思いつつ、気を失い、目覚める度にまだ続いているねっとりとした、快感にこれが毎日だと僕が辛い…と己のあえぐ声を遠くに聞きながら、波にゆられる小舟のようにゆさぶられた僕はぼんやりと思った。
その日から昼に家に戻らず、夕方早めに帰宅する日が数日続いた。
毎晩酷使される腰がいたい。
というかお昼の1回が減ったせいか以前より夜がとにかく長くてねちっこい。
非常に辛い。
これは分散しないと体力がもたない。
今更ながらそんな事実に気付いた。
うっかり2回に減ってしまった。
本当は5回が平均だというのに…というか1日5回の振り分けがわからない。
朝、昼、晩以外であと2回はどこにねじ込めばいいんだろう?
しかしなによりそれに付き合える鬼人の女性はなんて凄いんだろうか…
僕は男なのに…
そんな事を考えていたら帰宅したニオアさんに食事もそこそこに貪られいつの間にか朝になっていた。
布団の中ですっかり腰が抜けた僕は頭を抱えた。
このままじゃダメだ。
このままじゃ体がもたない。
何とかしなくては…
腹上死へのカウントダウンはすでに始まっている気がする。
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