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怪しい大人(八色side・2)

 俺は病室を出ると、適当に病棟をぶらついた。子どもの遊びに参加してくれそうなドクターを捜しに来たのだ。部屋を出る際に、少年から相棒よろしく「どろぼうと間違えられんなよ、気をつけて」とアドバイスをもらった。少年はすっかりアジトで待機する悪い奴の気分でいるようだ。  今回の病院はそこそこ大きめの施設で、小児科病棟のフロアは保育施設のように色鮮やかだ。掲示板には色々なお知らせと共に、折り紙で作られた花や動物が貼ってあって目にとまった。中には物騒な内容のお知らせも混ざっていた。どうやら泥棒が出るらしい。少年の懸念はこれだったようだ。  院内学級ルームからは笛の音が漏れている。20床の病室は完全個室。長い廊下に均一にスライド式のドアが並んでいる。俺は賑やかな場所を背にして、廊下の奥へ進んだ。そして突き当りの角を曲がると、俺はさっと足を戻して曲がり角に身を隠した。ゆっくりと顔を出し、折れた廊下の先を覗く。  そこには一人の中年のドクターがいた。妙に動きが怪しい。何かを探している足取りだ。場所に不慣れな研修医や新任とは違う、あれは……。 「空き巣じゃねぇか」  中年ドクターの歩み、視線、全てが空き巣の入り込める家を探す時の動きだ。俺はポケットからスマホを取り出し、動画撮影をスタートさせた。目星がついたらしく、中年ドクターは足を止めると、目前のスライドドアを静かに開け、するりと入り込んだ。ドアは勝手にカラカラと元の位置へ戻る。  俺もその部屋の前へ忍び足で近づくと、そろそろとドアを開け、液晶画面越しに中を確認した。中年ドクターは周囲の確認もせず、サイドテーブルの引き出しを開けると、中から長財布を取り出して、さっと白衣の内ポケットへ入れやがった。俺はスマホを動画撮影のモードのままでポケットへ差し込むと、部屋へ飛び込んだ。 「おい、オッサン。掲示板に貼ってあった検査中の盗難ご注意って。アンタの仕業かよ?」  中年ドクターはあからさまにうろたえ部屋から逃げ出そうとするが、俺はドアの前で腕組をした。中年ドクターはぐっと俺を睨みつけ、苛立ちで体を揺らしている。ネックストラップの先っぽにぶら下がる身分証明をみて、俺は苦笑した。 「呆れたな。白衣コスの空き巣かと思ったけど。ガチンコのドクター様じゃん」 「き、君。何の証拠があって、私を泥棒扱いするんだ? 私はただ忘れ物を取りにきただけだ」  俺は無言でスマホを取り出すと、撮影したばかりの犯行現場を再生してやった。中年ドクターの顔色が真っ青になる。 「選ばせてやるよ」  俺の言葉に、中年ドクターはきょとんとする。そして何かを察したとばかりにニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。 「なんだ? 金で証拠を買って欲しいのか? あぁ、わかるよボランティアは大変なんだろう、ホスピタルクラウン君」 「そう。でも金目当てじゃない。一人じゃ大変だから、俺の仕事を手伝ってくれ。今から子どものイタズラを我慢するか、それとも自首するか。どっちがいい?」  中年ドクターは馬鹿げた質問だ、と毒づいた。その後、こいつはあの少年と俺から散々な目に合わされるとは知らずに「手伝う」を選んだ。

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