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仕事の話(丞side.2)
電子音のあと、電話口から少し硬い、焦った声が自分の名前をフルネームで応える声が聞こえた。
「……ふふ、うん、番号を間違えなくてよかったよ八色(やくさ)くん。クラウンのお仕事は終わったかな?」
昔からかわらない、最初は少し緊張した声。だんだんと慣れてすこし砕けた口調になる。この過程もかわらない。
「今日は仕事の依頼。とあるお屋敷にお呼ばれしてね。一緒に来てほしいんだ、クラウンとして」
朗らかに、穏やかに、落ち着かせるように言葉を紡ぎながらお願いをする。もし仕事が被らなければお願いをしたいと思っている。
「……詳しい日時はメールするから確認してくれるかな?」
「是」という応えに微笑みながら「嘘が全て悪いものではないと、ぼくは思っているよ」と伝えれば一瞬息を飲んだ音がした。
「あ。ごめん、仕事の時間だからまたあとでね」
電話を切れば、鳩が時間を知らせる時計が往診に向かう時刻を示していた。
「あぁ、遅れてしまう……」
首もとで髪を結い直し、シャツとスラックスの上に白いロングジャケットを羽織る。
白衣は子どもが怖がる場合があるため着用しない。その代わり、白いロングジャケットを愛用している。これは祖父から受け継いだ習慣だ。
「いってきます」
応えのない家に挨拶をして足早に往診先である病院に向かった。
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