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医者と予感の話(丞side.3)

 霞みがかった夕焼け空を見上げてそっと息をつく。病院に呼ばれるとはいえ慣れるものではなさそうだ。普段から個人宅に呼ばれることの多い仕事柄、院内という閉鎖的な空間は苦手だったりする。 「あ、詳細を八色くんに送らないと……」 家を出る前に撮ったメモをメールにいれて送る。 名前と住所、簡単な子どもの状態説明。本文に「来週なら日程はこちらで決めていいそうです」と一文入れる。 精密機械は苦手だなぁと思いながらポチポチと文字を入力した。 「さてと、ぼくはぼくの仕事をしないとね」 子どもの心の殻をどこまで壊さずに薄くできるだろうか。いつもそう考えている。 言葉にするのは大人も難しい。 言葉とは諸刃の剣であり煙に巻くこともできる。 ぽちりと送信ボタンを押す。 「……嫌な予感がするんだよね」 たまに感じる。そこはかとなく、静寂のなか背後に迫るような、胃がずしりと重くなるような感覚。 そういう時は高確率でナニカがおこる。 だから、クラウンを呼ぶことにしている。 自分とは違う視点で物事を見てくれるから。  大人のエゴも、子供の機微も、塗り込んで隠してしまえば本当になる。歪んだ傷は悲鳴を上げても無視されてどこかで綻び、崩壊する。 その前に少しでも改善できたらいいなと思うんだ。 医者のエゴだと知りながら……。

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