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下見する大人(八色side5)

 片足をついて自転車を停めると俺はスマホを取り出し、地図アプリで道を書くにするふりをしながら周囲の動画撮影を始めた。ここは先生のメールに書いてあった住所で、すぐ傍らには今度お邪魔する予定の屋敷が建っている。 「明治時代の華族か、戦前までに財力のある外国人が建てたって感じだな」  二階建てなので圧迫感はないが、見る者への重圧感は半端ない。使われている建築素材、建物のデザインはもちろん窓や外周に施された彫刻から相当の格のある貴族が造らせたものだと解る。俺はやや自転車をすすめると、別の角度から屋敷を撮影した。  俺は本業はホスピタルクラウンだけどボランティアなので、生活費は色んなバイトで稼いでる。今日はそのバイトの一つであるUber Eatsの恰好で来たので、少しくらいスマホをのぞいて停車していても通りすがりの奴らから胡散臭がられる心配はない。 「多分庭に池もあるな、これ」  俺は詐欺師時代に様々なことをやった……やらかした経験から、建物の外観を見ればおおよその間取りが推測でき、実際まぁまぁ思った通りの造りになっている。子どもを楽しませる今回の仕事に直接関係はないけれど、何かが起こりそうな案件に関しては下見してしまうのが性分だから仕方ない。 「どうせ俺が何を調べたって、全部水の泡なんだろうけどな」  先生は俺とは別経路の情報源を持っている。色んな人に頼んだ方が違った情報を得られると先生は思っているようだけど、たいがい俺のは調べ済みであって、更に俺の知らない情報まで揃えてくるんだから腹立たしい。 「今回は情報収集してくれって頼まれたわけじゃないから、腹を立てる筋合いはないんだけどな」  俺は子ども部屋の見当をつけると、大きく溜息をついて帰路についた。 

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