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どうしてこうなった(3)
『ーー 祥太郎っ!!』
奈津美が大きな声で名前を呼んだ。
すると窓際の方に5、6人の集団がいて一斉にこちらを振り返る。
その瞬間、反射的にビクッと肩が跳ねた。
そしてその中で一際目立つ金髪の男。
「おー、こっちこっち。」
微笑みながら手招きをした。
すると周りを囲っていた派手な女の子達がその場から立ち去っていく。
そして俺達の横を通り過ぎる時に恐ろしいほどの顔で舌打ちをした。
……おおお、怖っ!!
女の裏顔を見たような気がした。
しかし奈津美は平然としてて、むしろ髪をなびかせながら歩く。
そんな奈津美の背中に隠れながら青ざめる俺。
すると祥太郎の明るい声が響いた。
「よう!久しぶり~。
てかまた光と一緒かよ?
何だ、お前ら。付き合ってんの?」
祥太郎がニヤリと態とらしく笑う。
「あら、嬉しい。
そう見えるのかしら?」
奈津美もまた小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「いや、残念ながら見えねぇわ~。
まず奈津美ってオヤジ好きだろ?
あとダメ男のブサイク好きだもんな?」
祥太郎がガッハハと豪快に笑う。
しかしこんな下品な笑い方をしても会室にいる何人かは頬を赤く染めている。
やっぱりモテるんだな、なんてちょっぴり羨ましく思ったり思わなかったり……
でも奈津美は逆にキリッと睨み上げた。
「はあ?誰がブサイク好きよ!?
アンタね、いつもいい加減なことをっ!!
……って!!
……ふぅ。そんな事はどうでもいいのよ。」
珍しく冷静さを一瞬失った奈津美。
しかしすぐにハッとし、我に戻ったようだ。
「ねぇ。頼み事があるのよ。」
「は?頼みごと?
いくら幼馴染でもあげる金などねぇからな。」
相変わらずふざけた口振りの祥太郎に奈津美が大きなため息を吐く。
「……あのね?
ナンバーワンキャバ嬢を舐めないでくれる?」
そう言いながら腰に両手を当てた。
そして俺の腕を掴むと強引に祥太郎の前に立たされた。
「私じゃなくて……
光ちゃんにバイトの紹介して欲しいのよ!」
「は?……光に??」
祥太郎が驚いたように目を見開くと、上から下までなめるように見る。
『…っ…っ』
その視線がなんだか怖くて嫌で顔を慌てて俯かせた。
「居酒屋のバイトをクビになっちゃったの。
でも光ちゃんって色々出費でお金が必要なのよ。
だから日払いとか出来て、高時給のとこお願い。
まぁ無駄に顔だけは広いんだから余裕でしょ?」
「おいッ。無駄は余計だろ!!」
すかさず祥太郎がツッコミを入れると奈津美がフフと笑う。
そして「光ちゃん」と名前を呼んで俺の背中を軽くぽんっと押した。
「んじゃ、祥太郎。
後はよろしくお願いね?
私、今からネイルの予約してあるから。」
『 「 は? 」 』
驚きで顔を上げてみると二人の声が重なった。
え?
い、いま……な、なんと?
目を見開き、首をぶんぶんと横に大きく振る。
しかし奈津美はニコっと笑った。
そして少し意地悪な笑顔をし、ヒラヒラと手を振る。
「んじゃあ、光ちゃん、頑張ってね~」
そう言うとさっさと会議室を立ち去ってしまった。
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