8 / 32

始まり

取り残された俺達に不穏な雰囲気が流れる。 祥太郎と二人っきりなんて滅多にない。 ……き、気まずい。 チラッと顔を見れば、無表情の祥太郎と目が合った。 そして無表情のままちょいちょいと手招きをする。 俺は唾を飲み込み、一歩前に出た。 すると香水の香りがふんわりとし、耳元で祥太郎がボソッと囁く。 「…ついにお前も男娼する気になったのか。」 一瞬意味が分からず首を傾げたけど、慌てて祥太郎と距離を取った。 『ば、ばかっっ。 な、な!!そ、そんな訳ないだろう!! てかおっ、お前もって…!?』 あわあわとうろたえながら顔が徐々に火照っていく。 しかし祥太郎は相変わらずふざけた口調で言った。 「なんだ。違うのか。 ぶっちゃけ楽だし短期で儲かるけど? でもまぁお前はこっち側じゃねぇしな? あ、だからって……女の免疫もないか。ハハッ」 明らかにバカにされてる。 たしかに女の免疫とかそんなの全くないけど…ハッキリ言われると無性に腹が立った。 『こ、こっち側ってなんだよ!? てか、悪かったな!! モテるお前とは違って全然免疫とかなくて!!』 ムキになって言い返すと祥太郎がバカにしたように鼻で笑う。 クッ……クッソ!! なんだよ、その表情は!!! てか祥太郎って…男娼とかしてんのかよ!? 心底こいつなんかに相談するんじゃなかった、と後悔した。 すると祥太郎が前髪を掻き上げる。 「んで?どんなバイトならいいんだよ?」 『ど、どんなって…っ…!! その…っ…ふ、普通のバイトだよ!! とりあえず…っ…金に困ってるから日払いとか…出来たら、嬉しいけど。』 「だからお前の普通が分かんねぇんだよ。 てか高時給で日払い出来るとか普通のバイトじゃ無理だからな?」 祥太郎が不機嫌そうに眉を顰める。 う…っ…それはたしかに。 やっぱり無理かあ。 そう簡単に上手い話なんてないよな。 今月どうしよと肩を落としながらバックを持ち直した。 『ご、ごめん……手間取らせた。』 頭を下げて立ち去ろうとしたら、祥太郎が突然スマホを手渡してきた。 『え……な、なに?』 「いいから。とりあえず見ろ。」 不機嫌な祥太郎に対し首を傾げながらも、言われるままスマホの画面を覗き込んだ。

ともだちにシェアしよう!