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始まり(4)
『何だよ…っ…何だよ……!!』
「……っ…ちょっ、おまっ!!」
叫んだ俺に祥太郎が驚いて俺の腕を掴んだ。
しかし俺はそれの手を思いっきりバシッと払う。
『くっそ!!
祥太郎の……!!ばか!はげぇっっ!
どうせ…っ…俺なんか臆病者だよっ…っ…
でもっだからってっ祥太郎に関係あるのか!?
もうっ、あっちにいけっ!近寄んな…っ…!!』
顔を俯かせながら肩を震わせた。
何だよ、何だよ!!
何も知らないくせ…っ…!!
気がついたら自然と涙が浮かんでて、それは何の涙なのか自分では分からなかった。
でもとりあえず悔しくて…悲しくて。
名前を付けれない感情が今にも爆発したようだった。
「臆病者」だなんて。
そんなこと自分が一番分かってる。知ってるんだ。
でも変わりたくてもそう簡単に変われるほど出来た人間じゃない。
だから皆から好かれてキラキラしてる祥太郎に俺の気持ちなんて分かる訳がないと思った。
『…っ…くっ……グスっ』
溢れだす涙をゴシゴシと拭った。
でも涙はまた溢れてくる。
すると祥太郎が焦ったような声で呟いた。
「わ、分かったから。
とりあえず泣くなよ…!みんな見てるだろ。」
その言葉に俺の涙は驚くほどぴたりと止まった。
ゆっくり耳を澄ましてみると、ザワザワと会議室が騒がしい。
どうやら俺達は注目の的になってるらしい。
『…っ……!!』
心臓が激しく鳴り響く。
ドクッドクッと。
振り返らなくても分かるほどの痛い視線が背中で感じる。
大学で有名で目立つ祥太郎と……
誰だアイツみたいな、冴えない俺。
みんなのヒソヒソと話す声が嫌で足元が竦んで体は小刻みに震えた。
すると祥太郎が急に舌打ちし、俺の手を引いた。
そして隅の窓際へと強引に押しやる。
どうやら顔色が悪い俺を見て、周りから遠ざけてくれたらしい。
しかしこんな時どんな表情すればいいのか分からず露骨に顔を背けた。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
しかし先に沈黙を破ったのは祥太郎だった。
「……わりぃ。
少しばかり言いすぎた。」
『……っ…』
またしても喉の奥が詰まる。
さっきは怖くて。今は気まずくて。
俺もごめんって謝ればいいんだろうけど、慣れない雰囲気に顔を上げることが出来なかった。
すると頭上からボソッと声が聞こえた。
「お前見てるとイライラすんだよ。」
突然の発言に驚きで俯いていた顔を上げた。
すると薄っすら目を細めた祥太郎と目が合う。
『……え?』
「正直、お前の過去に何があったとか知らねぇ。
でもずっとそこで立ち止まってんだろ、お前。
変わりたいとか思わねぇの?」
ハッと息が止まるかって思った。
まるで全てを見透かされた気分になった。
でもこれでも俺は大学に入って少しは変わったんだ。
前よりも人と喋れるようになったし、何よりも奈津美と友達になれた。
昔の俺じゃ…考えられない。
友達を作ることさえも許されなかったんだから。
だから…だから……
これ以上のことなんて求めてないし、何をどうすればいいって言うんだ。
『俺は……そ、そんなこと、別に。』
目を逸らしながらボソッと呟いた。
「……そう。まぁどうでもいいけど。
お前の人生なんだし。
でもせっかく紹介してやろうと思ったのに。
ここ紹介がないと働けれないんだぜ?
あ、その前に男相手はありえねぇ……だっけ?」
腕を前に組んで皮肉な笑いを見せる。
『…っっ…いやっ…ちがっ…』
「別に気にすんなよ。
とりあえず偏見とかそんなの慣れてるから。
俺のことも理解して欲しいとか思ってねぇし。」
『……あっ、そ、その…っ…』
「光には分かんねぇと思うけど、意外とやり甲斐のある仕事なんだよ。
会員制だから変な客とかもいねぇし、代表も無愛想だけど親身な人だし。
あとこの前、俺の客がさ?外国のお土産で……」
すると祥太郎がペラペラといつもの調子で話し始めた。
少し圧倒されながらも俺達の雰囲気が穏やかになったように感じた。
でもとりあえずさっきの誤解は解かなくちゃ。
そう頭では分かってるのに、一つ一つの言葉がまとまらない。
『しょ……しょう、たろう。』
蚊が鳴くような声で名前を呼ぶ。
すると地獄耳なのか、祥太郎が首を傾げた。
「ん?」
『いや…っ…その。
お、おれ…っ…その…っ…さっきご、ごめん。』
やっと謝罪の言葉が出た。
すると祥太郎がふっと鼻で笑う。
「だからもう気にすんなって。」
そう笑いながら俺の肩を強めに二度叩いた。
そして言葉を続ける。
「俺の周りの奴らにも聞いてみるわ。
いいバイト見つかったら、奈津美に連絡入れるって伝えてて。」
『あ、うん。
ごめん。あ…っ…ありがとう。』
今度は素直にお礼を伝えると、祥太郎が楽しそうに笑った。
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