ーー　次の日。 いつものように講義が終わるとさっさと教科書やノートを片付ける。 でもいつもとちょっぴり違うのは、手汗をかいてること。 心臓だって激しく高鳴っている。 周りにバレないように小さな深呼吸をし、立ち上がった。 祥太郎は白に近い金髪だから、すぐにどこにいるのか分かる。 拳をぎゅっと強く握りしめた。 そしてゆっくりと近寄り、目立つ群れ達の目の前に立つ。 『……祥太郎。 ちょっとだけ話いいか。』 震えた声でこの中で一番目立ってる奴に声をかけた。 すると一斉に俺のことを見たけど、すぐに周りの群れ達は祥太郎の方を見た。 「は？」「誰？」とかそんな声が聞こえるけど、今は俺の心臓の方がうるさい。 祥太郎は驚いた顔を一瞬見せて、ニコっと笑う。 「……ん、いいぜ。」 祥太郎は少し間を開けて返事をした。 そして鞄を持つと「じゃあな」と群れ達に挨拶し、俺に対しては顎でこっちと合図する。 俺は緊張でぎゅっとまた拳を作り、とりあえず祥太郎の後ろを追った。 そして祥太郎が連れてきたのは昨日と同じ会議室だった。 「んで？珍しく自分から声かけてまでの要件は？」 『あ…っ…ご、ご、ごめん。』 「いや、別に謝らなくていいけど？ 昨日のバイトのことならまだ探してるからな。」 ふっと鼻で笑って目を細めた。 『…っ…う、うん。 あ、そのことなんだけど。あ、あのさっ。 その、俺っ…っ…！！あ、の…昨日…さっ…』 緊張しすぎてか、また頭の中が真っ白になっていく。 昨日お風呂で色々反省して、考えて、伝えたいことがある。 でも祥太郎の顔を見て話すと、どうしても言葉が出てこない。 これは祥太郎だけの話じゃない。 人の顔色ばかり見る癖が身についててもう顔を見て会話するのが怖いんだ。 だからそんな自分が嫌で無意識に顔を俯かせる。 「………」 『……っ……』 お互いに異様な無言の時間だけが流れる。 こうなればもう顔なんて上げることが出来ない。 今、祥太郎はどんな表情をしてる？ ……怒ってる？……それとも呆れてるか。 すると祥太郎が中々話し出さない俺に痺れを切らした。 「……おい、光。」 いつもよりも低い声にビクッと肩が上がった。 『……っ…う、ご、ごめん。』 顔は上げずに謝る。 すると祥太郎がくしゃりと頭を掻いた。 「分かった、分かった。待つから。 ゆっくりでいいから自分の気持ち伝えろよ。 俺はお前の話をちゃんと聞く。」 その言葉に俯いていた顔を無意識にゆっくり上げた。 祥太郎は無表情に俺を見つめていたが、その瞳は嫌悪感を感じず少し穏やかに感じた。 ふうと息を吐く。 『……俺っ、一晩考えたんだ。 俺は高校の時のトラウマのせいで…っ… その…っ…人付き合いとか嫌いで……言葉足らずだし……話すのが苦手なんだ。』 そう言うと祥太郎が俺をじっと見つめたまま無言で頷く。 『だから昨日…っ… ありえねぇって言ったのは…自分に対してなんだよ。 祥太郎がありえないとかじゃなくて、俺みたいな奴がありえねぇって意味で。 でも……ごめん、嫌な勘違いさせちゃって。 その…っ…誤解されたままじゃ、嫌だから。』 チラッと祥太郎を見上げた。 ちゃんと伝わってるのか分からない。 今更になって下手な言い訳してきたとか思われてるかもしれない。 でもやっぱり本音を伝えたかった。 『お、俺さ…… 祥太郎の言う通り……臆病者だよ。 人の顔色ばかり伺うし、嫌われたりしたくないし。 だから大学に入ったら変わりたいって何度も思った。 でもやっぱり色々怖いんだよ……』 ゆっくりと自分の気持ちを一つ一つ整理しながら言葉にして伝えた。 祥太郎は変わらず無表情のままだけど、真剣に聞いてくれてるのが分かる。 『昨日さ、思ったんだ。 俺には……弟を守る為のお金が必要なんだって。 だからその為にもこのコミュ症を直したいって、思っている。 ちゃんと克服して、自慢な兄ちゃんになって…っ…… だから…っ……そのっ、俺が言いたいことはっ……』 そこまで話すと喉の奥が詰まって顔を俯かせてしまった。 正直昨日、俺のこと何にも知らない祥太郎にあれこれ言われてムカついた。 でも逆にあぁはっきりと言われてどこか嬉しかった気持ちもあったんだ。 だって祥太郎とは奈津美を通して話すぐらいだし、俺に興味なんてないと思ってたから。 『……その……色々ありがとうな。 お、おれ……その、頑張ろうと思うから。 祥太郎の仕事みたいのはちょっと無理だけど、ある程度の仕事なら頑張ってみ、』 「うん、分かった。」 祥太郎がいきなり俺の言葉を遮った。