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俺の思い(3)

『……え?な、何が?』 「だから、分かったって。 お前は変わりたいって思ってんだろ? そして弟を育てる為にお金も必要だってこと。 ならよ?答えは一つじゃねぇか。」 意味が分からず眉を顰めながら首を傾げた。 すると祥太郎が無表情から一変し、真っ白な歯を見せながら笑う。 「俺と一緒にsweet Tearで働け。」 『……は?』 「だから一緒に働こうと言ってんだよ。」 いや……え? 祥太郎の言ってる意味が分からず、口をだらしも無くポカンと開ける。 え、俺の話……真剣な表情で聞いてたよな? 『……いや、その……? 祥太郎の仕事はさすがにさ?ハードルが、』 「大丈夫、大丈夫!最初は皆そうだって。 俺だってお前と同じ大学デビューみたいなもんだし。 ま、俺は成功したデビューだけど。」 そう言うと一人面白おかしく笑った。 『……ちょ…っ…は? いや待て待て。落ち着いて、祥太郎。 俺は真面目な話をしてて…っ…』 「はぁ?変わりたいって言ったよな? 俺も真面目に" 提案 "してんだよ。 じゃあ、お前は何年後の話してんだよ? 弟が何だって?お前の人生だろうが。」 祥太郎が眉を釣り上げ迫り倒す勢いで言う。 ヒィと声が漏れた。 『……っ…だから、それはっ』 祥太郎の話が飛びすぎてついていけない。 てかそっち御用達の仕事だろ? まず俺……違うし。それは無理があるだろ…… って、また言葉を選び間違えそうになって口を閉じた。 「昨日、光のことを代表に相談したし。 一回会わせてみろって。 それに光の見た目なんか男に好かれる為に生まれてきたみたいな顔してるだろ。 だから絶対、大丈夫。心配すんなよ。」 祥太郎がバカにするようにフッと鼻で笑った。 『……は? それ…っ…どーゆー意味?』 「とりあえず事務所に連れて行くから。 今日のバイトの予定は?」 祥太郎が時間を確認するようにスマホを取り出す。 『……ご、5時からファミレスだけど。』 「ふーん、それって何時まで?」 『……9時まで。』 「ん、おっけい。 なら9時半に六本木交差点の時計台な。 時間厳守。……じゃあな!」 そう笑顔で言うと俺の前からヒラヒラと手を振る。 『え!?』と引き止めたものの、無視して立ち去って行ってしまった。 はああ!?いやいや。待つんだ。 ……お、おい、祥太郎っっ!!!! 『…………』 俺はただ呆然とその場に立ち尽くした。 そうだ。そうだった。忘れてた。 祥太郎はそういう男なんだ。 一言で言えば…… 自分勝手で我儘で意地悪でただ外面だけはいい。 ……奈津美が前にそう文句言ってたっけ。 いや。一言なんかじゃ全然収まってねえ。 苛立ちを感じながらも……なぜか心臓が痛い。 でもこれは今まで感じたことのある痛みとは少し違っていた。 例えるのならば……心が弾んでいた。 こんな気持ちになるのは久しぶりで、不思議な気分だった。 決して嬉しいとかではそう言う訳ではない。 むしろ腹は立ってる。 まさかの祥太郎の身勝手さには。 でも……でも…… 新しいことに対する挑戦、変わりたいと言う欲望。 今までどこかで諦めていた。 けれども…… 稼がないといけない絶体絶命に俺の心が弾んでるんだ。 いや、元々生まれ持った性格なのか。 臆病ながらも、もう一つの心臓があるかのようにずっと高鳴りっぱなしだった。

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