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俺と楓さんの過去(4)
その日をきっかけに俺達の関係は確実に変わってしまった。
今まで仲良かった友人や後輩。
なぜか俺を避けるようになった。
しかしそれは和哉が仕向けていた事だと後から知った。
そして放課後や休日。
いつの間にか取り付けられた外鍵で俺の自由まで奪った。
なぜ和哉がそんな事をするのか全く分からなかった。
でも一つだけ分かったのは、俺が他の誰かと仲良くするのが気に食わないってこと。
だから俺が大人しく部屋で勉強していれば普段通りの和哉だった。
『……だから受験までの我慢だって。
和哉は俺と違って進学受験だから。
きっと受験前で苛ついてるだけだって…っ…!
バカな俺がヘラヘラしてるから、こんな事するんだって…っ…っ』
そう思い込ませ、信じていた。
受験さえ終われば……
あの時は叩いてごめんな?って和哉はきっと申し訳なさそうに謝るんだ。
そしたら俺はめちゃくちゃ怒って、でも最後は笑って許してやるんだ。
『……そう思ってた。』
ボソッと呟くと楓さんが不思議そうに「光?」と名前呼んだ。
俺は首を二度振り、無理矢理笑顔をみせた。
ちょっとだけ手先が震える。
でも今日は自分でも驚くほど落ち着いて話せている。
大丈夫。もう逃げない。
楓さんが半分こにしてくれるって言った。
だから……ちゃんと。
過去の自分と向き合いたいと、楓さんの目を見据えた。
『でも和哉が……いたんです。
入学式……まるで人が変わったような姿で。
髪を染めて……ピアスまで開けて…っ…不良の先輩とつるんで…っ…』
そこにもう俺の知ってる和哉の姿はどこにもなかった。
いつも俺が困っていると必ずヒーローのように手を差し伸べてくれた和哉は。
『そして俺は高校3年間…っ…!!』
ひゅっと息が切れた。
毛穴から嫌な汗が吹き出る。
瞼の裏に俺を見下ろし笑う和哉の姿が浮かんだ。
変わらず俺が他の誰かと仲良く喋っていれば、次の日からそいつは俺のことを無視する。
結局俺は3年間友人を作ることを許されなかった。
和哉から逃げようとすれば、必ずお前は俺を捕まえに来た。
そしてあの時よりもまた大きくなった手で俺を殴ることもあった。
和哉…なんで……同じ高校に来たんだよ。
何がそんなにお前を変えてしまったんだよ。
ーー お前なんか……
親友なんて思ったことねぇよ。
ふと嫌なこと思い出し、無意識にがじっと下唇を噛む。
その瞬間、血の味が口の中に広がった。
『…っ…俺が何したんだよ…っ…!?
和哉に嫌われるようなことした?
俺が気が付かないだけでずっとしてた…?
俺だけかよ…っ…!
お前のこと親友だって思っていたのは…っ…!』
息が苦しくなって嗚咽混じりに喚く。
『…ぅっ…くっ!
くそ…っ…な、なんでっ…っ…涙なんかっっ!!』
不意に流れた涙を袖で強めに拭き取った。
もう和哉の事は忘れたはずだった。
なのになんでこんなに悔しくて悲しいんだろう。
お前のせいで俺の高校生活はずっと最悪だった。
何一つ楽しいと思ったことはなかった。
そしてお前のせいで人と話すことが苦手になった。
今でも人の顔色ばかり気にしてる。
だからどんなに良い思い出があったとしても、俺は一生和哉を許すことが出来ないだろう。
悪い思い出も楽しかったお前との思い出も全部。
何一つ残らず捨てたんだ。
野上和哉という人間を俺の中から消したんだ。
『…うっ…ぅっ』
また涙が溢れた瞬間、突然ふあっと甘い香りに包み込まれた。
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