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半分こ
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
でもぎゅっと痛いぐらいの力が入った。
『…ぅ、えっ。
ちょっ、ちょっ…っ…か、楓さん!?』
抱きしめられた事にハッとし、引き離そうとするけどビクりとも動かない。
それどころか更にまた力が入った。
『が、が、えでさん……ぐ、苦しいっ』
一体どこからこんな力が…っ…!!
苦しむ俺の声に楓さんがゆっくり手を放すと今度は肩をガシッと掴んだ。
「ありがとっ、光。」
『……へ?』
「頑張ったね。偉いよっ。
ちゃんと自分の意思で最後まで話してくれた。
僕とっても嬉しかったよ。」
そう言う楓さんの瞳が少し輝きを見せた。
「今ね?
光の苦しみを半分こにしたんだよ。
だから僕も悲しくてとっても心苦しい気持ちになった。
でも光はそれをずっと一人で我慢してきたんだよね。
……すごいね、光は」
その言葉に俺は大きく首を横に振った。
『す、すごいなんて…っ…
ずっと逃げてばかりだし……
そういう所がダメだから、今でも克服出来てなくて…っ…』
「ううん。違うよ。
いつかきっと乗り越えれる事が出来るよ、必ず。
ねぇ?!だから……光っ!!」
楓さんが突然少し声を弾ませながら俺の名前を呼ぶ。
『は、はいっ』
「僕と一緒に sweet tear で働こう!!」
その言葉に目を大きく見開いた。
楓さんはとびっきりの笑顔を俺に魅せる。
少しまだ頬に伝う涙を袖で拭きながら楓さんの笑顔に見惚れてしまった。
「ね!?光!!ね!?」
『ぇっ…あっ…いや…っ…で、でも…っ…』
「今日から僕が光を雇うから。」
『……え??』
「ふふ。プロデューサーとして。」
『……プ、プロデューサー?
いや、で、でも蓮さんが…っ…
俺にはこの仕事は無理だって…っ…
俺も正直……む、無理だと、思います。』
そう言いながら気まずくて顔を俯かせた。
でも俯かせた顔と裏腹に心はとても穏やかだった。
なんだろう、このスッキリとした気持ち。
初めてずっと隠してた感情を誰かにぶつける事が出来たような、そんな感じ。
でもそう出来たのは、他の誰かじゃなく楓さんだったからだと思う。
「んも〜光はおバカちゃんだなぁ。
だから無理だって思う事も僕と一緒に頑張ろうね、って言ってるんだよ〜」
お、おバカちゃん?
つい顔を上げると楓さんは頬を膨らませていた。
「蓮には僕から話しておくから。
それに蓮はね?
ただ偉そうにしてるだけで仕事の事は全然理解してないんだよ?
それに比べて僕は!!えっへん!!
何を隠そう!!なんと経験者なのでーす!!」
腰に手に当てて胸を張る。
えっへん!!って……
それを口にする人いるんだ。
そんな楓さんについ苦笑いを浮かべた。
すると今度は何かを思いついたようにスマホを取り出す。
「そうそう。
僕のお客さん紹介してあげるね!!
あ、心配しないで。
もちろん絶対に良い人しか紹介しないから。」
そう言って鼻歌まじりにスマホを弄りだした。
その姿はすごく楽しんでるように思える。
まさかの展開に苦笑いから顔が青ざめるのが自分でも分かった。
ど、どういうこと?
てか勝手に話が進んでないか?
まず俺、働くなんて一言も言ってねぇっ。
すると楓さんが「あっ」と眉を顰めた。
「ねぇ、光??
一つ聞いてもいいかな?」
じっとスマホを見つめながら尋ねる。
『…えっ?
あ、は、はい。』
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