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半分こ (2)
楓さんの表情が険しくて何を聞かれるのか不安になる。
「あのね?
もしかしてだけど光って……さ?」
『…っ…は、は、はいっ。』
「ちょっと前にね?
看板ボーイとかしてなかった?」
『…っ…え?
か、看板ボーイ、ですか?』
予想外の質問に頭の中がハテナマークでいっぱいになる。
看板……ボーイ……??
しかしすぐにハッとした。
『あ、もしかして看板ボーイって…
キャバクラとかの呼び込みのこと、ですか?』
「そうそう!」
楓さんが激しく首を縦に頷く。
たしか夏頃に奈津美が働くキャバクラで看板を持ってお客さんを呼び込む仕事をした事がある。
『あ…っ…は、はい。
でもすぐに…っ…や、辞めちゃいました、けど…っ…』
呼び込むって言っても俺は本当にただ看板を持ってお店の前に立つだけ。
でも結局飲み屋だから酔っ払いに絡まれて2日で辞めたっけ…
ハハ……我ながら恥ずかしい。
少し顔を背けると楓さんがぱあっと目を輝かせた。
「やっぱりっー!?」
スマホを片手にとても嬉しそうに喜んだ。
『…か…っ…か、楓さん??』
「あ、ごめんごめんっ。
何でもないよっ!光は気にしないでねんっ♪」
明らかに様子のおかしい楓さんに俺は不思議に眉を顰める。
いやいや、気にしないでって……
気にならない方がおかしいだろ。
てかまずなんで2日しか働いてない仕事を知ってるんだよ!
『……いや…っ…あ、あのっ、か、楓さん?』
そう名前を呼んだ瞬間。
「ねぇねぇ光!
さっそくで悪いんだけどねぇ?
もう明日、仕事入れちゃうから!!」
笑顔でそう言うと、今度は突然カシャっとスマホで写真を撮られた。
「……ふぇっ!?」
カメラ音と楓さんのまさかの発言にマヌケな声がつい自然と出る。
な、なに、ええ?
ちょっ、え、は、勝手に写真なんか…っ…
すると楓さんが「みてみて〜」と少し興奮気味にスマホの画面を見せる。
そこには少し不機嫌そうな表情をした俺が写っていた。
しかも若干ブレてる。
『…っっ…なっ!?』
「これはこれでアリだねっ。送信っと♪」
『ちょっ、か、か、楓さん!?』
誰かに俺の写メを送ったようで、慌ててスマホを取り上げようと手を伸ばした。
『な、な、な、何してるんです、かっ』
ーー しかしその瞬間。
「……シッ!!」
楓さんの表情が一瞬にして変わった。
そして耳を澄ますように目を凝らし始める。
は!?な、なんだ?!
俺はゴクッと静かに喉を鳴らし、釣られて俺も耳を澄ました。
しかし俺には何も聞こえない。
『………』
「………」
異様な雰囲気だけが流れる。
何なんだよ、この人……本当に……
するとふと微かに男の人の怒鳴り声が聞こえた。
いや……気のせいかもしれないけど、そんな気がした。
でも楓さんには確実に何か感じてるようで、相変わらず表情は険しいままだ。
とりあえず何がなんだか分からないけど、息を殺しながら楓さんをただじっと見つめた。
『…………』
すると楓さんが俺の視線を感じたのかバチッと目が合った。
その瞬間、さっきまでの険しい表情が一変し、柔らかい笑みを浮かべる。
そしてゆっくり口を開き、聞こえるか聞こえないぐらいの声で。
「……光。
もうそろそろ帰ろうね?
僕がお家に送ってあげるよ。」
そう言って細い手をゆっくりと伸ばした。
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