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俺の理解者 (5)

そっとポケットから携帯を取り出し、画面を開く。 そこに表示されてたのは新着メールだった。 「……誰?」 やっと口を開いた瞬がそう尋ねる。 『えっ……あ、ちょ、ちょっと待って。』 慌ててメールを開いた。 宛名先は 楓 と書いてあって、名前の後ろに赤色のハートの絵文字が付いている。 『……あっ』 その声に瞬も一緒に携帯を覗き込む。 ーーーーーーーーーーーーーー 家に着いたよ! 今日は面接きてくれてありがとう。 また光に会いたいなぁ。 ーーーーーーーーーーーーーー そう書かれてあった。 ……よかった。無事に着いたんだ。 ホッと胸を撫で下ろす。 それと同時に連絡してくれた事がとても嬉しかった。 もう二度と会えないんじゃないかと思ってた。 だって仕事断ってしまったし、最後失礼なことをしてしまったから。 すると瞬が俺の携帯を取り上げた。 「なんで連絡先交換してるの?」 『……え?』 『居酒屋で働かないんでしょ? なら連絡先交換する必要ある?』 そう言って冷たい流し目を向ける。 『……は? いや、別にそれは俺の勝手、』 「必要ないよね。」 俺が返事する前にそう言って、楓さんの連絡先を削除してしまった。 そして「はい」と携帯を渡される。 一瞬何が起こったのか分からず、無理矢理握らされた携帯をただじっと見つめた。 『……ちょ、な、何やってんだ。』 「あの人、兄ちゃんとは合わない。 まず夜の仕事してる人と関わるのは辞めなよ。 ろくなことないよ。」 淡々とそう話す瞬を唖然と見つめる。 いやいや、え? だからってそこまでするのか? 驚きで開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。 『だ、だからって……』 絶対に今日の瞬は変だ。 いくらなんでもやり過ぎだ。 俺に怒ってる事はもちろん、でもそれだけではないような気がした。 「じゃあ今、連絡きてどう思った?」 『……は?』 「嬉しそうに顔がニヤけてたけど。」 ジロっと睨みつけられる。 それはまるで軽蔑したような目付き。 『べ、別に…っ…そんなこと、』 「もう連絡する必要ないし、会う必要もないでしょ。 てか居酒屋で働いて嫌な思いしたのに懲りないんだね。」 また俺の言葉を遮る。 そんな瞬に対して俺も怒りのようなモノがだんだん湧いてくる。 『だからってあんな態度取るのはおかしいだろっ 楓さんは関係ないっ』 「あんなって?」 『だからもう二度と会う事はないとか本人に、』 「だって本当の事でしょ? それともまた会う気でいるの?何の為に?」 無表情でハッキリと言われる。 何の為に……って。 楓さんがまた俺に会いたいって言ってくれた。 俺もまた会えたら嬉しいと思う。 それじゃダメなのか? でもなんとなくそれを瞬に伝える勇気がなかった。 『だ、だからって…… 言い方ってもんがあるだろ。』 「ああいうタイプはハッキリ言わないと分からないんだよ。 昔から兄ちゃんは流されやすいんだから。」 『はぁ?誰が?俺が?』 さっきから淡々と話す瞬に苛立ちを隠せずにいた。 俺が話してるのに途中で遮るし、ちょいちょい睨みつけてくるし。 すると今度は呆れたように溜息を吐かれた。 「……もういいよ。」 『は?何が?!』 「だからもうこの話は終わりにしよう。」 『はぁ?さっきから何だよっ。 言いたい事があるならハッキリ言えよっ!』 「別に何もないよ。 それよりカレー作ってあるから食べる?」 今まで何事もなかったように普通のトーンで喋りかけてくる。 それがあまりにも自然すぎて、一瞬頭がついていかなかった。 でもカレーというにワードにハッとし、鍋を見た。 そこには俺の好きなカレーが温めてあって、いい匂いが漂う。 その匂いにじわりじわりと罪悪感で胸が痛んだ。 『……っ…』 さっきまでの怒りが徐々に消え去っていく。 気まずくて、申し訳なくて、泣きそうになった。 『ご、ごめん。』 声が震えた。 すると瞬が俺の頭に手をのせた。 「……もう怒ってないよ。 でも遅くなる時はちゃんと連絡して。 兄ちゃんだって俺が連絡しなかったら怒るでしょ? それと夜の仕事する時はちゃんと俺に教えて。 でも出来るだけ深夜はやめて欲しい。」 『……ん、ごめん』 小さく頷くと、瞬がクスっと笑った。 『……な、なに?』 「いや、兄ちゃん背縮んだかなって?」 『…っ……! 瞬が大きくなったんだろ!このバカッ』 口を尖らせながらそう言うと、瞬がいつものの笑顔を見せて笑った。 「あ、そうだ。 兄ちゃん先にお風呂入ってきたら?」 『えっ、いや、いいよ。 せっかくカレー温めてくれたし……』 「大丈夫だよ、また温めればいいから。 それにせっかくだからサラダも作ろうかなって。」 そう言うと冷蔵庫からキュウリやレタスを取り出した。 「ちゃんと野菜も食べないと、ね。」 そう言うと、俺の苦手なセロリを意地悪そうに見せた。 どうやら機嫌が直ったようだ。 よかった、と俺も笑顔を見せる。 『ん、分かった。 じゃあ先にフロ行ってくる。』 そう言うと浴室へと向った。 でも俺の中で小さなモヤモヤが残ったままだった。

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