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第15話

 予定では大阪で一泊して、翌日に車で帰って来るはずだったが、緊急事態に空路を選んだのだ。羽田という立地が幸いして、思ったよりも早く現地へと駆け付けられそうであった。  ジェット機の中では、氷川が遼二に詫びていた。 「すまない。紫月を巻き込んじまった」  深々と頭を下げながらそう言う氷川に、遼二の方も恐縮していた。 「オーナー、もうそれくらいにしてください。紫月は粟津さんたちが無事に救出してくれたっていうことですし、それよりも雪吹代表のことを真っ先に考えてください!」 「ああ、本当にすまない。現地にいる帝斗と俺の部下たちもまだ中には踏み込めていない。紫月の話では爆弾が仕掛けられてるってことだ。俺が到着するまでとにかく待機しかない」 「――はい」  まったく――汚い手を使う犯人だ。遼二も眉間の皺を深くしながら頷いた。  手元の時計ではあと十分足らずで空港へと到着予定だ。僅かのこの時間が千秋にも思えていた。  氷川と遼二らが帝斗たちと合流できたのは、それから一時間もしない内であった。 ◇    ◇    ◇  その頃、冰は催淫剤によって変調をきたし始めた己が欲と戦っていた。傍では相変わらずに高瀬が視姦を続けている。どうにもならない状況に身悶えていた。 「そろそろ欲しくて堪らなくなってきただろう? ああ、波濤――本当に美しいね、キミは!」  陶酔しきった表情が視界を侵す――  意思を裏切る身体を恨めしく思いながらも、冰の脳裏にはただ一人の愛する男の姿でいっぱいになっていた。  龍――ごめんな。  俺、またこんなことになって……お前を裏切っちまうんだな。  けど、これだけは約束する。例え身体がどうされようと、俺の心はお前だけのもんだ。誓ってお前一人のものだから――  彼は今頃、遠く大阪の空の下、何も知らずにいることだろう。あの温もりに再び触れるその瞬間まで、どんなことがあっても諦めはしない。  今ここで、高瀬を怒らせて爆破スイッチを押させたとしたら、貞操は守られ気持ちは救われるかも知れない。これ以上の恥辱を受けなくても済むだろう。だが二度と愛しい男に会うことは叶わない。そんなのは嫌だ。  例えどんなに汚れようと、穢されようと、生きてもう一度あの胸に包まれることを諦めてはいけない。冰は固く心に誓っていた。

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