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第17話

 それというのは、高瀬の望む通り――いや、それ以上の言葉を掛けて彼の気を反らそうというものだ。  高瀬は以前のような関係を望んでいる。こちらが彼を求めてやまないことを望んでいる。であるならば、彼の欲するものを差し出してやれば、少しでも考え直すかも知れない。  正直なところ、愛しい男を裏切るようなマネはしたくないし、こんなことを平気でするような高瀬を、例え嘘でも自分から求めるようなことはひと言だって口にもしたくはないが、今はとにかくこの男を思い留まらせることが何より先決である。一か八か賭けてみるしかない。  冰は覚悟を決めると、ふうと一息、心の中で深呼吸をして目の前の男を見つめた。 「高瀬……さん。ンなことは……もうどうでもいい……。もう分かった、もう降参するよ……俺、もう限界なん……だ」  トロりと視線を潤ませて、自らの肌を大胆に差し出すように仰け反りながら舌足らずな調子で訴える。引き裂かれたシャツから覗く素肌を惜しげもなく晒して、欲情を煽るかのように身悶えてみせる。 「波濤――?」  急激なその変化に、高瀬の方も一瞬眉根を寄せたが、すぐに興奮したように瞳を輝かせ始めた。 「……欲しい……んだ。もうマジで堪んねえ……んだ。頼むから触って……早くして……くれ。アンタが……」  欲しい――  欲しくて欲しくて堪んない……!  早く、早く、焦らしてないで早く―― 「どうにかして……くれよ……! ……っ、つぅ……ッ」  たっぷりと大袈裟なくらいの嬌声と共に、冰はそう懇願してみせた。自ら淫らに腰を揺らし、本当にもう堪え切れないと訴える。 「高瀬さん……早く、……芳則さん……! アンタの……が欲しい。頼むから……」  実際のところ、幸か不幸か熱を持った雄が高瀬の目の前で先走りの蜜を漏らして下着を湿らせている。誘うような乱れた仕草と視線は絶品で、高瀬はみるみると瞳を輝かせた。  それが新宿歌舞伎町の一等地で、不動のナンバーワンホストだった波濤こと雪吹冰の商売のテクニックだとは微塵も疑うことなく、本心から彼が自分を求めてくれているのだと、すっかり舞い上がっていったのだった。 「波濤……波濤! やっとその気になってくれたかい! 本当に僕が欲しいか……? 本当に?」 「ああ……嘘なんか……言わない。アンタのが……欲し……はぁっ……」 「僕がいいのか? あの龍よりも僕がいいんだね!?」

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