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2:運命の人
校長室を出てもまだ現実味がなく、陸の思考もまとまりがなかった。
桐崇は校舎を出てすぐのベンチに座っていた。
「終わったか?」
少し不安そうな桐崇の顔。
陸は桐崇の隣に腰掛け、どう切り出そうか迷ったが、先程言われた事をそのまま桐崇に伝えた。
「俺、アルファらしいよ」
「はッ?」
桐崇は驚いた様子で目を見開いて、隣に座る陸を凝視した。真偽を計りかねている様子だった。
陸はさきほどのやり取りを説明したが、桐崇は返事もせずに黙り込んでいた。陸の言葉を咀嚼するように考え込んだ後、ようやく口を開いた。
「君がアルファと聞いて納得したよ。君は他の人と違って、よく目立っていたから」
陸は立ち上がると、桐崇の手を引いた。
「それより早くマルド行こうよ。さっきクーポン配信されてさ……」
「悪いが急用が出来た」
桐崇は目を伏せて、早口に言った。
「じゃあ、一緒に帰ろう」
「いや、一人で帰りたい。マルドは今度な」
桐崇は立ち上がると先に一人で帰ってしまった。
※※※
しかし、二人でファストフードに行くことなどなかった。その日を境に桐崇の態度が一変したのだ。一緒にしていた登下校もすっぽかされ、話しかけても逃げられる。明らかに避けられていた。
そんなやり取りが数日続いた後の朝。
陸は家を出るなり、大きなため息をついた。きっと今日も待ち合わせ場所に桐崇はいないだろう。それでも陸は、その場所に足を運んでしまう。
「大丈夫? りっくん、最近元気ないよ」
陸が顔を上げると、ユウが心配そうにこちらを見ていた。家が隣のユウも、ちょうど登校しようと家を出てきたところなのだろう。
「恋人さんと喧嘩?」
「喧嘩っていうか、一方的に避けられてる」
「どうして?」
「俺がアルファって分かったからじゃないか」
「りっくんアルファだったの?」
ユウが驚いて声を上げた。
「そんなに性別って大切なのかな。俺がアルファだとあいつはやっぱり嫌なのかな」
陸の愚痴にユウは首を横に振った。
「そんなことないよ。アルファでもベータでも、りっくんはりっくんだよ」
「ありがとう。ユウは優しいな」
陸はいつものようにユウの髪を撫でた。
視線を感じて顔を上げると、待ち合わせの場所に桐崇がいた。しかし桐崇は陸たちの姿を見るなり、逃げ出した。
「桐崇!」
陸が叫んで、その後を追った。陸は桐崇の腕を掴むが、桐崇は抵抗するように腕を振りほどこうとする。
「離せ」
「嫌だ! なんで俺を避けるんだよ!」
陸はきつく桐崇の手首を掴んだ。離せば逃げ出すだろうと思うと、力を緩める事が出来なかった。桐崇は諦めたように抵抗するのを止めた。そして、うなだれて力なく呟いた。
「……別れたい」
その言葉を聞いた時、陸は頭が真っ白になって絶句した。桐崇は続ける。
「アルファとオメガ。君たちはお似合いだよ」
「意味分かんね」
陸はようやく言葉をひねり出したが、その声は震えていた。
「分かれよッ!」
桐崇が声を荒げて、陸の腕を乱暴に振り払った。こんなに感情的な桐崇を見たのは初めてだった。桐崇の声もまた震えていた。
「僕たちは番にはなれない。どれだけ付き合ったって、君はいつか君にふさわしい番を見つけるだろ」
『番の関係は、恋人よりも夫婦よりも深い』
そんな言葉をどこかで聞いたことがある。
陸の脳裏に様々な言葉が頭をよぎったが、どれも白々しく感じ、言葉にならなかった。
「そうなった時、僕は君の重みになる」
他の生徒がいなくなった道で、桐崇の悲しげな声が重く響いた。
「僕は君の運命の人にはなれない」
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