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第3話
そんな事を考えているそばから、男の手が瑞希の服を脱がし始めた。
「やめろっ…っ…さわるな…」
懸命に抵抗するものの、得体の知れないスプレーを嗅がされたせいか身体には全く力が入らなく、拘束具が揺れる音だけが虚しく響く。
ジャケットと、その下のシャツは全てのボタンを外され、下肢は下着ごと膝下まで一気にずり下げられてしまった。
すると、新城は上着のポケットからプラスチック素材でできた半透明の何かを取り出すと、まだ柔らかな瑞希の股間を徐に掴んできた。
「何す…っ」
いきなりそんな場所を掴まれて怯えと驚きで目を見開く瑞希は、新城の手にあるものを見て更に瞠目する。
卑猥な形をした小さい南京錠付きのそれは、SMクラブではよく使われる射精管理調教グッズ…所謂貞操帯だたからだ。
当然それを付けられるのは初めての瑞希は、狭い貞操帯の中に押し込められる自分の股間を見つめながらわなわなと震えていた。
「なんで、そんなもの…」
狼狽する瑞希とは裏腹に新城は淡々とサイズを調整すると、最後に小さな南京錠に施錠をする。
酷い光景だ。
卑猥なチェアに座らせられ、手足は拘束、中途半端に脱がされた格好で貞操帯までつけられているのだから。
羞恥を感じると、自ずと押し込められた股間が疼いてしまった。
「これで多少手元が狂ってもここが傷つく事はないでしょう」
新城はそう言うとニヤリと口角を上げた。
そして、手早くジャケットを脱ぐとポケットから次々と道具を取り出しはじめる。
嗅がされた怪しいスプレーといい、貞操帯といい、用意周到過ぎる。
きっとこの男、最初からこれを企んでここに来たに違いない。
精一杯の嫌悪を込めて睨みつけると、男はうっそりと微笑みながら瑞希の腹部を撫でてきた。
「あなたは少々暴れん坊だから…これくらいしないと大人しくさせてくれないでしょう?」
まるで瑞希の言い分を汲み取ったのかのようなセリフにますます腹がたってくる。
「まずは剃りやすいように短くカットして差し上げますね」
まるで語尾に音符マークでも付いてそうな軽快な口調で、新城は鋏を持った手を近づけてきた。
「ぁ…っ、や、やめろ…」
尖った刃が瑞希の鼠径部へと向けられる。
いくら貞操帯をつけているとはいえ、股間に刃物を向けられて怯えない男がいるわけがない。
ガタガタと小刻みに震える腹部に金属が当たる感触がして、瑞希は思わず息を止めた。
シャキ…シャキ…と鋏の刃が重なる音が聞こえる度に背筋がぞわぞわとして凍りつく。
鋏の恐怖から解放されてホッとしたのもつかの間、次に新城は何かとろりとしたジェルのようなものを垂らしてきた。
たっぷりと垂らされたそれは、なんだかひどく甘ったるい匂いがして瑞希の頭をクラクラとさせてくる。
「なんだ…これは」
「あぁ、ただのシェービングジェルですのでご安心を」
新城の言葉に瑞希はぎょっとした。
この男は本当に…本気でやるつもりなのだ。
別に誰かに見せるわけでもない。
そこの毛がなくなったからといって日常生活で困ることなんて何一つないことはわかっている。
けれど瑞希は嫌なのだ。
それをこの男にされるのが。
恥ずかしい部分を抉じ開けられて暴かれて、それを知られていく度に、新城一昴という男が瑞希の中に深く根づいて、そこに居座り離れなくなるのが嫌で嫌でたまらない。
自分と男との間に生まれはじめている得体の知れない何かを、これ以上知りたくなかった。
「…ま、待て、わかった。今度のイベントでお前の案を採用する。あと、そうだ…クラブで人気のあるお前好みのマゾも何人か紹介してやる。だから…だから、それだけは…」
なんとか制止を試みようとする瑞希に、新城は片眉を上げるとこちらを見上げてきた。
威圧的なものを含んだ男の眼差しに、思わずひくりと喉をならす。
「おやおや、いけませんね。そんなくだらない取引きで懐柔しようとするつもりですか?…悪い子だ」
それはサディストの眼差しだった。
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