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第4話

「今日も元気に通学ね!」  最寄り駅で電車を待つアランはいつも楽しそうだ。  車で通学すればいいものを「せっかく日本の学校通う。だったらみんなと同じにしたいね」だそうで、アランは頑なに電車通学をしている。  白昼堂々襲ってくる暗殺者はいないようなので問題はないが、ここまでお気楽に日々過ごしているアランを見ていると不安になる。  今まで俺が殺してきた対象者たちは、狙われていることを知らずに能天気に過ごしているやつはもちろんいたが、中には何度か命を狙われてと ても警戒しているやつもやはりいた。  そもそも、一度でも命を狙われたことがあるやつは異常なほど警戒するものだ。  肝が据わっているのか、何も考えてないのか。  本当にアランという男はよく分からない。  どこか変態じみているところも気になる。それとも、外国の王子という人種はこんなやつばかりなのだろうか。  いや、もう考えるのはやめよう。疲れるだけだ。  俺もアランに付き従って電車を待つ。今日は3限からの授業なので今から来る予定の電車は空いているだろう。1限からの時は地獄だが。 「しかしアラン、疑問だったんだが」 「ナーニ?」 「なぜ俺まで学生になる必要がある?」  護衛だけであれば、近くにいるだけで問題ない。だというのにアランは俺に同じ学生として常に側にいるよう指示してきた。 「そのほうが私が楽しい。いつも一緒にいたいね。それにそのほうがショウも守りやすい。違う?」 「別にどっちでもやることは同じだ」 「だったら問題なしね」 「いや、こういう学校は、その、普通受験とかしないといけないんじゃないのか? あと、学費とかも、あるんだろう」 「チョットね。国の父上に頼んでこのキャンパスに別館をプレゼントしたね! そしたらショウも学生にしてくれたよ。ソデノシタね!」  それはいわゆるワイロ、というものではないのだろうか。 「はぁ、俺は影でお前を助けるのが仕事だぞ」 「どうせ学校内は襲ってこないから問題ないよ。アッチも、あまりオオゴトにしたくないはず。それにこっちのほうが楽しいじゃない?」  本当に気楽なものだ。俺ため息で返事をしたが、ちょうど到着した電車にかき消された。 「アラン~!」 「Hi! ミノリ、マドカ!」  大学へ着けば、同じ研究室の女学生たちがアランに話しかけてくる。  アランは気さくで、誰とでも仲良くなる。女学生はみんなアランに夢中だ。  俺はそっと女学生たちの視界から外れたところへ立つが、ひとりの女学生、マドカの方だったかが、俺の服の裾をツンと引っ張ってきた。 「ずっと聞きづらかったんだけど、ショウくんってどうしていつもマスクしてるの?」 「あー、いや」 「フフフ。黙ってましたが、ショウはなんと忍者なのです! そして私を守ってるね! 必殺仕事人!」  面倒な質問をされてしまった。何と返事をするべきか悩んでいるうちに、アランが本当のことを言ってしまった。 『こいつ、何言ってくれてんだ?!』  俺たち忍者の存在は、日本政府の一握りしか知らないというのに。  なんとも言えない空気が俺たちの周りに漂う。 「あ、いや……合ってるけど違うというか、えっと」 「えーやだそれ、なんのギャグなわけー!」 「何かのコスプレってこと?」 「アラン、漫画好きだもんね。そっか、アランとショウくんは類友だったかぁ」 「私もコスプレとか好きだよ!」  話題はアランの好きな漫画の話に移り、俺が忍者だとかいう話は忘れ去られたかのように誰も口にしない。  常に、人の命を奪って生きてきた。  俺にとって死とはとても身近な存在で、こんなに簡単に人の命を奪う俺もいつ死んでもおかしくないと思っていた。  だが、こいつらはどうだろう。死ぬだなんて考えたことすらないようだ。  これが普通の、人間なんだ。  学校が終わり、帰宅するため帰りの電車を待つ。 「なあアラン。学校って、悪くないな」 「ソーデショ? 学校楽しい。ショウと一緒で、もっと楽しいね」  そう言ってアランが笑う。  帰りの電車も、行きがけと同様空いてた。

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