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 小さな一軒家と広い空地を前に、一組の若い夫婦が立っている。  勿論二人の家は小さな一軒家の方だが、幸せな二人に大きさなんて関係ない。後姿だけでも幸せなことが伝わってくる。  小さいけれどおしゃれな一軒家。その隣の大きな空地は、一軒家の何倍もの大きさがある。公園のグラウンドより大きい空地は近所の子供の遊び場になることもなく、マメに手入れがされていた。  そこにどんな人が引っ越してくるのか、どんな大きな家が建つのかを若い夫婦はものすごく楽しみにしていた。  庭から空地を見つめる母親の後姿の写真が多いのは父親が妻と子供を溺愛していて、尚且つ写真が趣味だったからだ。息子の健斗は母親に似て優しそう顔をしている。  立て看板もないのにきちんと手入れのされる空地に、いつかどこかの王子様が引っ越してくるかもしれないなんて夢を見ている母親はなかなか変わり者だろう。乙女な妄想に旦那はちょっとばかり苦い顔をしていたのは嫉妬だったが「居もしない相手に妬くなんて器用ね」と笑われて以来顔には出さないことを決めたようだ。

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