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江彦には小さく笑う母親がわからなかった。小さいながらに自分の家の仕事が、普通とは違うことをよく知っていた。父親は江彦や母親には優しいけれど、時々とても怖い顔をしている時がある。
それは強くてかっこよかった。大切な人を守るために自分も強くなりたい。テレビで見るヒーローよりも父親の方がずっと江彦にはかっこいい存在だった。
「あんなにかわいいこ、だれかにとられちゃわない? ぼく、ぜったいほしいんだけど」
「お友達になってずっと一緒にいたらいいんじゃない? 」
「うんと優しくしたら江彦のこと好きになってくれるかもしれないぞ。そしたらきっと、ずっと一緒にいてくれるさ」
今日会ったばかりの男の子を欲しがる息子にかける言葉とは思えないけれど、江彦にとっては大きな意味を持った言葉だった。
うんと優しくしようと決めた江彦。そして実際に優しくし続けることによって健斗を手に入れると心に決めた。
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