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 放課後の調理室からはいい匂いが漂う。クッキーの焼ける匂いでも、チョコレートの甘い匂いでもなく、食欲をそそる匂いだ。  とんとんとリズミカルな音を鳴らす包丁を握るのは部長の橘だ。どこかの令嬢と噂される彼女だったが料理の腕前も人柄も、ほれぼれするような人間だ。ショウガと長ネギがみじん切りになってまな板の上に小さな山を作っている。その後ろには青いエプロンと三角巾を付けた健斗の後姿がある。 「健斗、できた?」 「こ、れでも、いい?」 「あらま」 「ごめん、なんかいっぱい飛んでった」 「仕方ないわね」  橘が覗き込んだ健斗のまな板には大小ばらばらのショウガの残骸が散らかっている。どうしたらそこまで飛ぶんだというほどまな板からこぼれ落ち、まな板の上に残っている量の方が少ない有様だ。へへへ、と笑いながら散ったショウガを集める健斗を橘は責めたりしない。同級生のはずなのに、橘は健斗を弟扱いし可愛がっている。

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