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先き立つ者 8
「使えねえな」
盛大に舌打ちをし、雪耶は布団の上で惨めに座りこむ俊幸を見すえ、言った。
「後ろ向いて、両手を背に回せ」
「な……」
「早くしろ!」
雪耶が一喝すると俊幸はおずおずと言われた通りにした。背後に腕を回すと、雪耶はそれらを重ねて、手にしていたビニール紐で拘束する。何重にも巻きつけ、それでも余った分は雪耶が自ら噛み切った。
「何をするつもりだ……?」
肩越しに振り返り、俊幸は雪耶へ尋ねた。
「あんたに死ぬよりもつらい思いを味わわせてやるよ」
厚手のコートを脱ぎ捨て身軽になった雪耶は、拘束され座りこんだままの俊幸の横に立ち、腹を目がけて鋭い蹴りを食らわせた。
「ぐはっ……!」
靴を履いていないのに、その蹴りの威力は凄まじく、俊幸は衝撃で背中から畳へと倒れこんだ。後手に縛られたせいで受身が取れず、思い切り後頭部を打ちつけてしまう。
痛みをぐっと堪え、強く目を閉じていると、雪耶は容赦なく次の攻撃を開始した。
「うっ、ぐ……がっ、ぁ、っ……うぅ……」
何度も腹を蹴り上げられ、その重い衝撃に内蔵を抉り出されるような感覚へ陥る。呼吸ができなくなり、目の前が黒く染まった。
「痛いか? でもな、死ぬときはもっと痛いんだぞ」
「……っう……も、やめ……」
「聞こえねえ!」
「がっ……」
横倒しで雪耶の暴行に耐えていた俊幸は、その一撃で再び仰向けの姿勢へと戻された。背中に回った両腕に全体重がかかる。乱暴に縛られたビニール紐が手首に食いこみ、いまにも引き裂かれてしまいそうだった。
「なあ、あんた女とはやれるの?」
痛みに顔を顰める俊幸を見下ろしていた雪耶は、身動きの取れないその身体に覆いかぶさって、卑しい質問を浴びせてきた。答えないと何をされるかわからない。少しでも言いよどむと、待っているのは暴力の嵐だ。
口を開きかけた俊幸だが、下腹部に当たる硬いものの存在に気づき、思わず身を強張らせる。そこにあったのは紛れもない、雪耶の性器だった。
「……信じられないって顔してる」
「嘘だ……」
「あんたの苦しむ顔見てたら、いつの間にか勃ってた」
「やめてくれ……!」
「大丈夫、今日は挿れないから」
悠然とした態度でそう宣言した雪耶は、恐怖のあまりに噛み締められた俊幸の唇に口づけを落とし、そのまま喉元へと赤い花を散らしていった。それと同時に両手を器用に動かし、俊幸の衣服を寛げていく。肋骨が浮かび上がる、貧相な胸板が現れた。
「頼む、なんでもするから……もうやめてくれ……っ、んぅ!」
「ここで感じるのか、あんたは」
くすんだ乳首は形こそ小ぶりなものの、雪耶が軽く歯を立てただけで、びくりと身体が揺れる。その反応が面白かったのか、雪耶は焦らすようにチロチロと舌先で嬲った。
「もしかして……自分でやるとき、ここ、弄ったりしてんの?」
「してな……っあ……や、っ」
「はっ……だろうな」
雪耶は鼻で笑い、今度は俊幸のファスナーに手を伸ばした。
「ん……?」
その場所に触れた瞬間、雪耶の眉間に深い皺が刻まれた。
「何これ? 俺に酷くされて勃てるか、普通」
「え……」
俊幸もつられてそこを見やる。履き古したジーンズの上からでも、俊幸のものはその存在を主張していた。
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