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先き立つ者 11

 俊幸が雪耶を性の対象として見るようになったのは、雪耶が幼稚園に通い始めてしばらく経った頃だ。仕事で忙しい毎日だったが、妻の負担も考えて、雪耶をスクールバス乗り場まで送るのは俊幸の役目だった。  小さな手で俊幸の筋張った手を握り、短い足でトコトコと着いてくる様は、なんとも言えない愛らしさを醸し出していた。水色のスモックと、その下の体操服を脱がせて、触ってみたい。どんなに滑らかで、艶やかなんだろう。  雪耶を風呂に入れる役目は妻がしていたし、帰りも遅くなることが多かったので、俊幸は久しく雪耶の裸体を見ていなかったのだ。  やがて妻の目を盗み、雪耶の私物を拝借して自慰をするようになった。俊幸自身も幼い頃、いつの間にか物がなくなることが多々あった。おそらくあの頃の俊幸と同じように、父親がやっていたのだろう。恥ずかしい話だが、俊幸は父親から受けていた性的虐待のすべてを愛情表現だと思いこんでいた。だから同じことを息子の雪耶にもしてしまう。  それが間違いだと気づいた時には、すべてを失っていた。 「いまお前には、関係ない話だ」  俊幸はわざと冷たい態度を取った。 「……そうだな、俺も人のこと言えねえし」  雪耶は窪んだ目元に切ない笑みを浮かべて、ぽつりと独り言のようにこぼした。その表情にはっとさせられたが、何と声をかけていいのかわからない。  どちらとも話さないまま、しばしの沈黙が流れる。重い空気に耐えきれなくなった俊幸は、別の質問を投げかけた。 「どうやって鍵を開けたんだ?」 「決まってる。壊したんだよ」 「どうして無理やり抉じ開けたんだ……人の秘密を暴いて何が楽しい?」 「父親のことを知ろうとして何が悪い」  雪耶の凄みを帯びた、それでいて真っ当な主張に、俊幸は再び口を閉ざした。 「早く脱げ。まずは上だけでいいから」  正面から見据え、雪耶は冷たい視線で俊幸を動かした。どの道逃げ場はどこにもない。俊幸は前開きのシャツのボタンをひとつずつ、震える指先で外していった。

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