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先き立つ者 12
いつもより緩慢な俊幸の様子に、雪耶は何も口出しをせず、そのみすぼらしい身体が晒されるまでじっと待った。
「次は……どうすればいい?」
居た堪れない気分になった俊幸は、自ら次の行動を求めた。
雪耶の目は先日痛めつけられた腹の痣をなぞり、それから上へ上へと移って、控えめに存在感を放つ胸の突起物で止まった。
「そうだな……そこにこの名札を自分で付けてみろよ」
「え……」
「左の乳首に、自分で針刺して、付けてみろよ。俺のことが好きなら簡単にできるだろう?」
「無理だ! そんな……」
「無理じゃねえ。やるんだ」
右手に名札を持たれ、俊幸はただ困惑した。こんなもの自分で刺せるわけがない。名札を持つ手が震える。安全ピンの部分は錆つき、とてもじゃないが、これを体内に入れることは不可能だと思った。
固まったままの俊幸を見て、雪耶はあからさまな舌打ちをする。そのまま立ちあがり、自らのベルトに手をかけた。
「そんなに嫌なら、俺がしてやろうか?」
抜き取ったベルトを手に、雪耶が迫ってくる。あのベルトで拘束して、無理やり針を刺すつもりなのだろうか。考える前に俊幸の身体は動いていた。
突然立ち上がった俊幸は雪耶の身体を押し倒し、その首に手をかけた。首の絞め方なんて知らない。ただこれ以上、雪耶の言いなりになりたくなかった。
雪耶は抵抗せず、鬼の形相で自らの首を絞める父の様子を、冷めた目で見ていた。その冷やかな視線に戦慄を覚え、俊幸は無意識の内に両手に込める力を緩めた。
「……おい」
地を這うような低い声が、俊幸の鼓膜を揺さぶる。
「俺に逆らうのか?」
「……っ」
その声に触発され、俊幸は手を退かした。喉元を押さえ何度か咳をこぼした雪耶は、ゆったりと上体を起こし、蒼褪めた表情の俊幸を視界に捉えた。
それからは殴る蹴るの横行だった。身体を庇う間もなく、次から次へと拳が入る。俊幸はただされるがままだった。
「俺に逆らうあんたが悪い」
俯せた俊幸の身体を強く蹴り上げ仰向けにした雪耶は、腹の上に腰を下ろし、俊幸の両手首をベルトで縛り上げた。それから名札を手に取り、無抵抗な乳首に狙いを定めた。
「よかったな父さん……この頃の俺が好きだったんだろ? 俺のもので抜いてたんだろ? だったら、これでもイけるはずだよな」
「頼、む……もう、や、め……っ、あ、ああああああ!!」
異物が体内にめりこむ感覚。錆びついた針が皮膚を突き刺し、薄い脂肪をなぞる。そのまま雪耶は布を縫うように針の頭を外に出し、鋭い針先を留め具に収める。差しこまれたときよりもさらに激しい痛みが俊幸を襲った。
「ねんちょう、ちゅーりっぷぐみ、ふじわらゆきや……だって。かわいいな、父さん」
雪耶は笑いながら、俊幸の左胸に咲いた名札を指で弾いた。そのたびに体内を貫通した針が震え、鋭い刺激となって俊幸の身体を高ぶらせる。壮絶な痛みを凌駕する快感が、そこにはあった。
「なあ、このまま挿れていい?」
よほど楽しいのか、いつにも増して饒舌な口調で、雪耶は尋ねた。痛みと快楽という相反するものに脳内を支配されている俊幸は、雪耶の言ったことを上手く聞き取れなかった。
だが身体を反され、ズボンを下ろされると、慌てて抵抗を試みる。背後から雪耶がファスナーを下す金属音が聞こえ、取り出した性器を扱くヌチャヌチャとした水音が滲んだ。
「このままでも充分だよな」
その言葉に雪耶は俊幸の秘部を慣らしもせずに、挿入するつもりだと悟った。たしかに、これまで道具で拡張はされていた。だが、いきなり猛ったものを受け入れられるはずはない。
「よせ……!」
俊幸は絶叫にも似た悲鳴を上げる。だがそれは、雪耶を喜ばせるだけだった。
「いいか、よく聞け」
窄まりに先端をめりこませながら、雪耶は俊幸の耳元で囁く。
「あんたが犯したのは実の息子だってことを忘れるな。だからあんたは犯されるんだよ、実の息子にな」
ぴり……っと皮膚が裂ける感覚を最後に、俊幸は意識を手放した。雪耶は父の身体を貪るように何度も何度も腰を打ちつけ、最奥で果てた。
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