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先き立つ者 14
今日も雪耶は合鍵を使い、俊幸の部屋へ無断で侵入する。だがその顔色は悪く、いつにも増して重ね着をしているようにも見受けられた。
「雪耶……?」
拒絶よりも先に息子の体調が心配になった。
「どこか悪いのか?」
「うるせぇ……、さっさとケツ出せよ……」
肩で息をしながら雪耶は俊幸の前に立つ。こうして正面から見ると、出会った頃よりもさらに痩せたように感じる。まだ数日しか経ってはいないが、身体が触れ合うときでさえ、日に日に骨が浮き出てきているように思えた。
「雪耶、今日は止めよう。お前の痩せ方は異常だ。早く病院に――」
「黙れ!」
俊幸の言葉を遮るように、雪耶は声を荒げ、そのまま布団の上へ組み敷いた。
布越しに密着する肉体は確かに熱を帯びている。吐き出す呼気も熱い。掴まれた手首から雪耶の手汗が伝わる。高い熱が出ていた。
俊幸は抵抗し、何としてでも雪耶を病院に連れて行こうと思ったが、あまりに必死なその様子に返す言葉を失ってしまう。すべてはその瞳が物語っていた。
「時間がない……っ」
唇を噛み締め、悔しそうに吐き出す雪耶を見て、俊幸は何かを悟った。これは十三年間という短い期間だったが、それでもまだ残っていた父親としての勘だ。俊幸は身体の力を抜き、すべてを息子に委ねることにした。
「……わかった。まだ解してないから、少し待っていてくれ」
「嫌だ。今すぐ挿れたい」
「……あまり痛くするなよ」
俊幸が苦笑すると、雪耶は覆い被さっていた上体を起こし、おもむろに服を脱ぎ始めた。これには俊幸も驚いた。いつも雪耶はどんなに激しいセックスでも必ず服を着ていた。挿入時でさえも、多少ズボンが乱れるくらいだ。その雪耶が今日に限ってどうして。
疑問が顔に出ていたのか、それともその場から動こうとしない父親に焦れたのか、雪耶は一枚ずつ服を脱ぎ捨てながら俊幸に「早くしろ」とだけ言って、残りの衣服を脱いだ。
雪耶がここまで焦る原因はわからないが、それを抜きにしても、高熱を出している相手に無理はさせられなかった。まずは、今日の行為を終わらせて、早急に病院に運ぶ。そのためには、雪耶の望むままにするのが一番の方法だと思った。
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