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先き立つ者 15
俊幸は着古したトレーナーの上を脱ぎ、肌着も取り払って、まずは上半身を晒した。先日安全ピンを刺された箇所は、もうかさぶたになっているが、左の乳首だけ妙にふくれ上がった状態のままだ。
「何ちんたら脱いでんの? 早くしろよ……」
雪耶はすでに全裸になっていて、性器も半勃ちだった。雪耶の全身を改めて見た俊幸は驚きのあまり、思わず目を背けそうになった。薄くなっている。身体中の肉を削がれたかのようだ。全体的にやつれていて、未成年だというのに肌艶は失われていた。
「寒いだろ?やっぱり何か着てたほうが……」
「少しでも、父さんの体温を感じていたいんだ」
「……お前」
「だから、早く脱いで」
寒さに震えながらその場に立つ息子を、これ以上待たせるわけにはいかない。俊幸は素早く下も脱ぎ、みすぼらしい四十男の肉体を晒した。
左手首の切り傷に目が行きがちだが、他の箇所にも同様の傷が見受けられる。すべて死に切れなかった後悔の痕だ。それとは別に、この数日で雪耶から受けた暴力の痕もくっきりと残っていた。
雪耶から陵辱されるとき、俊幸もまた着衣のままだった。もちろん肌蹴たり、中途半端に脱がされたりはしたが、完璧に取り払ったのは今日が初めてである。雪耶もまた、全裸の俊幸を見て、驚いているようにも見えた。
「そんなに死にたかったのか……父さん……?」
雪耶の瞳が哀しげに揺れる。
「……すまない」
思えば罪を背負ったあの日以来、俊幸はずっと死ぬことばかり考えていた。当初はたとえ離婚したとしても、少しは雪耶に会えるのではないか、というわずかな望みもあったが、それは妻の妨害に遭い叶わなかった。
時が経つごとに望みは薄れ、死への執着が強くなっていった。病院送りになったことも一度や二度じゃない。でもどうしても最後に恐怖が勝ってしまい、いまもこうして生き続けている。
「お前に手を出した日からずっと……俺は死ぬことばかり考えていた……。でも俺は臆病者で、心が弱くて、結局死に切れなかった」
「……もうやめてくれ。これ以上聞きたくない」
「最後まで聞け。俺が死ねなかったのは、お前の存在が気がかりだったからだ」
「え……?」
「口ではお前に詫びるために死を選ぶってぬかしながら、本当は直接お前に謝りたかった。もう会えないとわかっていたとしても、最後の希望は捨てられなかったんだ。でもこうして、お前の方から俺を訪ねてくれた」
「……それは」
「あのときは、本当にすまないことをした」
俊幸は雪耶の目を見て謝罪をし、深々と頭を下げた。許してもらえるとは思ってない。雪耶の怒りを買い、このまま犯されても構わないとも思っていた。頭を下げている俊幸に雪耶の表情は見えない。怒っているのか、呆れているのか。それすらも察知できなかった。
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