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先き立つ者 17

 救急車の中で雪耶の心臓は止まった。二十歳の誕生日を前にして、息子は短すぎる生涯を終えたのだ。俊幸は一緒に同乗して、雪耶の最期を看取った。救急隊員の健闘もむなしく、雪耶は呆気なく逝ってしまった。  病院に着くと、雪耶の遺体が乗ったストレッチャーが建物の中へ吸い込まれていく。行かせたくない。手離したくない。自ずと俊幸の身体も彼らを追おうとしたが、背後からかけられた声に耳を疑った。 「雪耶さんのご家族はどちらに?」 「……私が父親ですが?」 「失礼ながら離婚されていると……」 「ええ……そうですが、なぜ?」 「先ほどおっしゃっていたではありませんか。錯乱状態だったので無理もありませんが。雪耶さんの母親の連絡先をご存知で?」 「はい……でも、私が雪耶の父親です」 「残念ながら戸籍上、いまのあなたはそうではない。雪耶さんの母親の……あなたの別れた奥さまの連絡先を教えてください」  このとき、初めて俊幸は別れた妻に対して、怒りにも似た嫉妬を覚えた。最期の最期まで、お前は雪耶を攫っていくのか。身勝手な思いだというのはわかりきっているが、妬まずにはいられない。  だが、いまの俊幸には何もできなかった。書類にサインをしたあの日から、俊幸と雪耶の間には何もない。紙の上では、とっくに他人同士になってしまっていたのだから。

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