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梅雨の君 7
父はそれから一年で亡くなり、家業を畳むのに半年ほど費やした。俺は家業の後は継がずまた働きに出ることを選択し、実家に一人になる母は、遠方に嫁いだ姉の勧めでそちらへ行くことに決まった。実家の家屋を引き払い、俺はまた自由になった。かつての会社の上司は宣言どおりに俺を待っていてくれていて、以前と近い環境でまた働けることになった。そして新たに社宅に入る。以前住んでいた街ではない。けれどその街までそれほど遠くは無かった。
雨が降りしきる夜、車を走らせて煌々と光が溢れるコインランドリーを目指した。その外観を眺めるだけでも懐かしい。今日は洗濯物は持ってない。代わりに実家を整理した時に出た漫画本を持ってきた。もしかしたら読んでもらえるかもしれないと、淡い期待を抱いてのことだ。駐車場に他の車は無い。一年ほど離れていただけでも、店内に入ると更にとても懐かしくなる。洗濯機の配置が少し変わっていて、穴が空いていたはずのベンチが新しくなっている。自動販売機も変わってしまっていて、カップ販売ではなくなっていた。彼が座っていた椅子は今も変わらず、本棚も変わっていない。俺は早速持ってきた漫画をそこへ並べていく。漫画のラインナップも去年と殆ど変わっていない。あの時の漫画の単行本もまだ揃っている…。
急にあの日の記憶が鮮明に蘇ってソワソワしてきた。そういえば、あの手紙はどうなったのだろう。そんな事を思い出してしまった。またあの時のように、押し寄せる高鳴りと震えに邪魔されながら、恐る恐る例の漫画の九巻を手に取る。何度も躊躇って辿るように撫で下ろしていた表紙をようやく捲り、何がどうなっていても深く傷つかぬようにと心に言い聞かせながら漫画の一ページ目をめくる。
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