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第5話 天然ノンケと仲間たち

涼太の天然っぷりに救われたあの夜から2週間が経とうとしていた。 セールが終わったことにより、涼太の帰宅も週の半分は俺より早い時間になって同じ部屋で共有する時間も増え、俺は最近機嫌がいい。 ドス黒美人のあさみさんは、あれ以来、何かにつけてのスキンシップが増えたらしいが、涼太の心は南極の氷の様に冷え切ってるらしいから、しばらくは安心だろう。 その話は置いといて、明日はふたりの休みが重なるという事もあり、涼太の仕事終わりに高校時代の友人達と4人で飯を食いに行く事になっているため、俺は涼太の会社からほど近い駅であいつの仕事が終わるのを待っている。 しばらくして 「青~、悪い、待った?」 涼太がいつもの無表情で歩み寄ってきた。 やべぇ、待ち合わせとかしちゃってなんかデートみてえ。なんか妙に緊張するな。 まあ、この後さらに男二人と合流すっから、色気もクソも無いんだけどな。 「ねぇねぇ、今のふたり、かなりかっこよくなかった?やばっ」 通り過ぎる女の子達の声が耳に入る。 ふっ、俺一人でも目立っちゃうってのに、涼太といるといつもこれだからな~、参っちゃうよな。 「あの~、すみません、もし予定とかなかったら私たちと飲みに行きません?」 年上であろう女性二人組が声をかけてきた。 「すみません、これから友達と飯行くんで。あと、オレたちまだ未成年なんで、酒飲めないです、すいません」 表情一つ変えない整った顔の涼太に一刀両断されて、女達はいそいそと去っていった。 さすが無神経涼太くん、躊躇なく女の誘いを断る姿、惚れ惚れしちゃうわ。 「おーい、涼太、青」 「おまえら、相変わらずのオーラ出しまくりのモテっぷりだな」 背後から声をかけてきたのは、中学高校と一緒だったカズと優也だ。 カズは涼太と同じ水泳部で、坊主頭でかっこいいとは言えないが、多少うるさいが裏表の無い結構いいやつ。 優也は俺と同じバスケ部で、身長は俺と同じくらいのこちらもかっこいいとは言えないが、おっとり系のマイペースなやつ。 カズと優也が幼なじみだった事もあり、高校に入ってからは4人でつるむようになっていた。 「久しぶりだよな、卒業してから会ってなかったから、半年ぶりくらいか?」 涼太の言葉に、 「ぶっ、涼太、おまえ社会人になってもその無表情かよ、おまえの表情筋崩壊してんな~」 カズが学生時代と変わらない口調で涼太をいじる。懐かしいやり取りだ。 俺達は駅から歩いてすぐの居酒屋に入る事にした。酒はまだ飲めないが、とりあえず雰囲気だけって事で。 「かんぱーい!」 カズの掛け声で、俺達はソフトドリンクの入ったグラスを合わせた。 「あー、早く酒飲めるようになりてえな、タバコもクソほど吸ってみてぇ!女とも死ぬほどヤリてえな、クソ!」 酔っ払ってもいないのにカズがくだを巻く。誰も突っ込んだりはしねえ。これもいつもの事。 「俺は彼女とやってるよ」 「え・・・」 優也の一言に3人同時に固まる。 え、嘘だろ、あの奥手中の奥手の優也に彼女!衝撃過ぎる。 「お前いつの間に・・・」 無表情だが、涼太の声からは明らかに動揺がだだ漏れている。 「卒業式の日に同クラだった真奈に告られて、それからかなぁ」 「てめぇ、幼なじみの俺にくらい言えよな!そーゆー大事なことは!ふざけんなよ、うらやましいぞこのやろー!真奈ちゃんといえば、ちょっとぽっちゃり見た目はふんわり系だけど、実は肉食だ、と俺の脳内女子図鑑に載ってる注目女子のひとりじゃねえか!うらやましい!」 さらっと答える優也に、捲し立てるカズ。 涼太といいカズといい、水泳部はアホばっかなのか? 「涼太、涼太は俺の事、裏切らないよな?な?おまえのコンプレックス其ノ壱を解決してやったのは俺だろ?」 テーブルを挟んで涼太の向かいに座るカズが身を乗り出して涼太に詰め寄る。 「そうだな、学生時代は助かった、でももう戻っちゃったよ、今は日焼けしてねえからな、あと、安心しろ、裏切ってねぇ」 何となく気まずそうな涼太の横顔を見ていると、俺の視線に気づいたのか、軽く咳払いをして涼太が話を続ける。 「今は青とルームシェアしてっから、青にはオレのコンプレックス其ノ壱はバレちゃったんだよな・・・」 あ、もしかして例のベビーピンク、か? 涼太の言葉にカズが続けた。 「こいつさ、体育のとき、後ろ向いてコソコソ着替えてっから無理やり覗き込んでやったら、ピンクの乳首隠しながら着替えてんだよ、ウケんだろ?」 「ピンクじゃねえ!ベビーピンクだ!なんならピンクベージュ寄りのベビーピンクだ!」 すかさずピンク否定する涼太。やべぇ、かわいい・・・ そんな涼太を気にする素振りもなくカズが続ける。 「だからさ~、俺、水泳部誘ったんだよ、うちは屋外プールしかねぇし、日焼けしたら色も濃くなるんじゃねぇかと思って!ちょうど部員も足りてなかったし、一石二鳥だと思って!そしたら見事に乳首も日焼けしてピンクがベージュに変色したんだよ!俺のおかげで晴れてこいつは学生時代、堂々と着替えることができるようになったってワケ」 俺はカズの話を聞きながら、学生時代の涼太を思い出していた。 今と変わらず無表情で無愛想だったが、同じ中学校の中では、抜群に綺麗な顔をしたやつだった。カワイイと言われている女子達の中でも涼太を超えるやつはいなかった。 俺もイケメンだからモテてはいたが、そういうのとはまた違って、涼太には美しさがあったように思う。 顔ばっか見てて、乳首は盲点だったな、クソ。 中学生の涼太のベビーピンクを見損ねた事がこれほど悔しいとは・・・いやピンクベージュか?まあどっちでもいいか。とにかく悔しいぜ。 そういえば、学生時代の涼太はいつも日に焼けていて、修学旅行のときの風呂場で見た、日に焼けていない尻の白さに、俺の青くんJrが反応しかけた事もあったな・・・ あのケツ、もっかい見てえなぁ。 今度、風呂でも覗いてやるか・・・?いやいや、ダメだろ、さすがにそれは。 俺は湧き上がる不埒な心にそっと蓋をした。 「そういえば、おまえらは彼女いた事ないの?」 「「ねえよ!」」 優也の質問に声を合わせて強めに答える涼太とカズ。 「あれ?青は返事しないね」 優也、聞かないでくれよ、俺の黒歴史を。 「高校の時、カテキョがどうとか言ってなかった?」 優也、頼むから掘り下げんなよ。 くっそ、涼太とカズが目をギラつかせてこっち見てやがる。 ・・・仕方ない、話すか・・・ 自分のレベルより下の高校に進学した俺を心配して、親が依頼した家庭教師が来たのは、高1の秋だった。近所の大学に通う20歳の大人しそうな足立先生という女性。 (この頃すでに涼太に惚れていた俺は、涼太との貴重な時間を削られたせいもあって、足立先生との時間が苦痛だった) 勉強が出来なくなった訳じゃない、ただ行きたい高校のレベルが少し低かっただけだ。 (涼太にあわせてたからな) 親は、俺の大学進学を望んでいたし、俺もそう希望していた。 性春真っ只中だった俺は、不覚にも勉強中の居眠りでスケベな夢をみて、はっと目覚めた時には完立ちしている状態だった。 (涼太にいやらしい事をしてた夢だったってのは死んでも言えねぇ) そんな俺を見て足立先生は、くすっと口に手をあてて笑って、 「それ、なんか苦しそう、楽にしあげよっか?」 と言って俺の股の間に入り込んで、普段の大人しい彼女からは想像できないくらい大胆に、口で御奉仕してくれた。 (これが涼太だったら・・・と考えながらフィニッシュしたんだけどな) それがきっかけで、彼女の方から「付き合おっか」と言われ (当時の俺は、男の涼太を好きだという事をどこかで否定したくて) 俺達は付き合う事になった。って言っても、親にバレる訳にもいかないし、会うのは俺のカテキョの時間だけ。 そして、いざやりましょう、ってなった時に気がついたんだよ、あ、俺、この人の事好きじゃない、って。 なんとか気持ちを持っていきたかったけど、なかなか勃たなくて、足立先生を他のやつに脳内変換して (涼太です) 最後までヤレたんだけど、最後の最後に他のやつの名前口走っちゃったんだよな。 (もちろん涼太です) 先生、すっげぇ冷めた目で俺の事見てて・・・ (自分と繋がってる男が、男の名前呼んでイっちゃってんの見たら、そら冷めるわ) 先生とはそれっきり。次回から家庭教師も暑苦しい熱血男子大学生に変更になってて。 「ってもういいだろ、その先生としか付き合ってないし、経験もその一回きりだよ。」 「で、その思わず呼んじゃった名前って誰だよ?」 話終えると、すかさずカズのツッコミが入る。 「当時好きだったアイドルのアンナちゃんだよ」 涼太だよ、と答える勇気は俺には、まだ、ない。 「そら、彼女さん、引くわ~」 カズの軽蔑の眼差しを受けながら、俺は涼太の横顔を盗み見た。 あれ?なんか・・・しょぼんとして見えるのは気のせいか? は!まさか俺の初体験かつ人生で一度きりの体験にショックを受けているのか?そうなのか? 涼太、俺に少しだけでも望みはあるのか? 「青、女とやった事あんだな・・・」 涼太が少しだけ震えた声を絞り出す。 これは!この感じはまさしく嫉妬じゃねえのか?涼太も俺の事・・・ 「いや、でも好きとかじゃなかったし、だいたい俺のスペックに見合う女なんているわけねえし!」 涼太以外の誰も、俺は・・・ 「うるっせぇ!この裏切り者がぁ!清い体はオレとカズだけじゃねえか!うらやましんだよゲスどもがぁ!」 あ、涼太のポーカーフェイス暴言、久々に見たわ。 怒りに震えてただけかよ・・・勘違いするとこだったわ。危ねぇ。 「それよかさ~、涼太の首んとこのうっすら歯型?みたいな跡、どうしたの?」 突然の優也の指摘に、俺達はふたり揃って固まった。 何その変化球に見せかけたどストレートな剛速球は・・・ まずい・・・しばらくは大胆に寝違えたという事にして湿布を貼りながら仕事に行っていた涼太だったけど、今朝、ほとんど見えないくらい薄くなってきたと言って、湿布を貼らずに出勤してったんだった・・・ 涼太の肌が無駄に白いせいで、まだ若干、跡が見えるのか・・・普段はボーッとしてるくせに、観察力は半端ねえな、優也。 「ここ、こ、これはなあ、おお、オレの不注意で近づいた近所のお、大型犬にガブッとやられたんだよ!なあああ?青おおお?」 ベタな嘘をつく涼太、さすがに信じねぇだろ・・・明らかに動揺してるし。お得意の無表情、使えてねぇし。 「・・・そっか、災難だったな~、痛かっただろ、お大事にな~、大型犬こええ~」 えええ~、怖いのはおまえらだよ!なんで? なんで信じちゃうの?そもそも人の首元に噛み付く様な大型犬なんて危険過ぎて、近づけるような所にいねえだろ。この話がホントなら弁護士を介して慰謝料請求できるような、新聞の地元のニュースに載っちゃう事件だよ? ちょっと考えれば嘘ってわかるだろ? けど、こんなベタな嘘が通用してしまうのがこのアホたちなのだ。 いつか、こいつらには涼太に対する俺の気持ち、話せたらな・・・んで思いっきりバカにされたりなんかして。 でもこいつらなら、きっと笑い飛ばして聞いてくれるに違いない、と思う俺だった。

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