6 / 210

第6話 あのくちづけをもう一度

涼太との同棲生活が3ヶ月を過ぎてしまったというのにあれから何の進展も無いまま、季節は冬になっていた。 俺からすれば、涼太と顔を合わせない日が無い事は、それだけで幸せだし奇跡のような毎日。のはずなんだけど、一度触れた涼太の肌の滑らかさと、あの唇の感触を知ってしまった今となっては物足りない毎日になってしまっていた。 風呂上がりだって毎日律儀にきっちりTシャツ着てやがるし、愛しのベビーピンクもあれっきりお目ににかかる事はないまま・・・ あの夜の涼太の感触を、香りを、ただただ毎日反芻している。 もう一度、涼太に触れたい。 俺ってこんなに欲張りだったっけ? 俺の恵まれた容姿、大抵の事ならさして努力しなくても対応できる器用さに惹かれて、大学生になった今でも言い寄って来る女は少なくない。 俺が望めば簡単に手に入るものは多いはず。 だけど、俺が望んだとしても涼太は絶対に手に入らない。 涼太にとっての恋愛、という土俵に上がらせてすらもらえない。 そう考えると心臓が潰された様に痛い。 ああ~、ラッキースケベでいいから何か起こんねぇかなぁ~! 今日もまた何にも起こんねえまま1日が過ぎていこうとしてるんだろーな!つまんねぇ! そう思いながら22時過ぎ、もうすぐ帰ってくるはずの涼太を待っていた。 あれ?なんか今日遅くねえか? 来週提出予定のレポートをまとめながら、いつの間にか23時を過ぎていた事に気付く。 間もなくして、玄関のドアが開く音がした。 「おかえりー、どっか寄ってた?」 「・・・いや、寄ってねえ、風呂入ってくるわ、ただいま」 あれ?なんか、明らかに様子おかしいぞ、あいつ。なんか、あったな。 無表情のくせに、態度はわかりやすいやつだからな、涼太は。 ・・・あれ?いつもなら20分くらいでバスルームから出てくるはず。もう40分は経ってるな。 心配になった俺はバスルームのドア越しに声をかけた。 「おい、涼太?体調悪いのか?」 返事はない。 「おいどーしたんだよ、大丈夫かよ」 もう一度声をかけると小さな声で涼太が呟いた。 「青、どうしよう、オレ、ヤバイかもしんねぇ」 その声に一気に不安になった俺は、バスルームのドアを開けた。 涼太はバスタブの中で両膝を抱えて座り込んでいた。 あ、涼太の裸・・・ 思わず見入ってしまう。大事な部分は見えなかったが、学生の時の日焼けした涼太ではなく、肌は白く、体毛は生えていないのかと思うほど薄く、細い体に程よく付いたしなやかそうな筋肉が、俺の目にはとてつもなくいやらしく映っていた。 ヤバイ・・・下腹が痛え・・・これ以上見るのはまずい。 「何やってんだよ、風邪ひくぞ、とにかく上がってこいよ」 ドアを咄嗟に閉めて涼太に風呂から出るように促した。危ねぇ!あいつの裸は破壊力が凄まじい・・・気をつけねぇと!恐るべしラッキースケベの威力! 俺は狂ったかのように脈打つ心臓を押さえながらソファに座り、涼太を待った。 5分ほどしてから、リビングに入ってきた涼太を見ると、違和感を覚えた。よく見ると、涼太のTシャツが前後逆じゃねえか!クッソかわいい!・・・じゃなくて、どうした、涼太! 「涼太、相当疲れてる?Tシャツ逆だぞ」 「え?・・・マジだ・・・やべぇ」 そう言って、バッとTシャツを脱いで着直す涼太。 おっふ・・・見ちゃったよベビーピンク♡いやピンクベージュ・・・いや、どっちでもいいけど、冷静になれ、俺。ラッキースケベ、恐るべし。 「で、なんかあったのか?今日変だぞおまえ」 珍しく、ソファに座らずにテーブルの横で正座する涼太。 「ヤバイ事になった・・・ドス黒がオレに恋してしまったと・・・溢れる気持ちが抑えられないと・・・」 無表情の上に完全に死んだ目をした涼太が、抑揚のない言葉を並べる。 「マジか・・・で、どう返事したんだよ?」 あの女、追っかけるのが好きな女なのか?涼太も災難だな、ほんとに・・・ 「もちろん断ったよ、断ったけど、どうしても、一度だけ抱いて欲しいって、じゃないと諦められなくて、飲み会の時、半裸の私を置き去りにした事言っちゃうかもしれないって…」 マジかよ、気狂ってんな、あの女~~~! 俺のかわいい涼太がドス黒乳首を抱くわけねえだろ! 「でも、断ったんだろ?女の誘いをバッサリ切り捨てんの、得意だもんな?」 「・・・恐怖過ぎて断れなかった・・・どうしよ!やべえ!マジで!来週!ドス黒と公休が重なる日に!会う約束させられた!こっわ!無理!」 マジなの・・・涼太・・・ なんで・・・ ちょっと待てよ、ダメだ、あの女が涼太の初体験の相手なんて許せるわけねえだろ。 何度も抑えていた涼太への欲望がまた俺の中で燻り出す。でも前みたいに涼太をビビらせる事は避けたい。 どうする、俺・・・ 「本番までに、練習、しとくか?」 俺は同じ轍は踏まない男!今度こそ冷静かつスマートに涼太を手に入れる!ドス黒より先に! それしか道は、無い! 「え?練習・・・おまえ、と?でもオレ達、男同士だけど、練習できんの?」 そう言って俺を見上げる涼太がかわいすぎて、思わず涼太をぎゅっと抱きしめた。 何も反応できないでいる涼太の唇に触れるだけのキスをしてみた。 「おまえは、俺が相手じゃ、嫌?今のキス気持ち悪かったか?」 額を合わせて祈るように涼太に問いかけてみる。どうか拒まれませんように・・・ 「気持ちわる・・・くはないかな・・・練習すんなら、知らねえやつよりは、青の方がマシ、かも・・・」 戸惑いながらも俺を受け入れてくれようとする涼太が、たまらなく愛おしい。こんな有り得ねえ練習、普通受け入れねぇだろ、どんだけバカなんだよ 、涼太、かわいすぎんだろー!俺をキュン死にさせるつもりか!・・・これは、また暴走しないように気をつけねえと。 「もう一回、キスするぞ」 「え?あ、うん」 改めて自分から宣言してハードル上げんな、俺!あー、心臓がうるせえ。 ぎゅっと目をつむり、俺のキスを待っている涼太を見ると、めちゃくちゃに泣かせてやりたい気持ちが溢れ出して来そうになる。ダメだ、今はまだ抑えねえと。 涼太の小さい顎を片手ですくい上げ、上を向かせ顔を近づける。 「ん・・・」 唇が触れた瞬間、涼太の肩がびくっと小さく跳ねて閉じていた唇から少しだけ吐息が漏れた。 「頼むから、あんまり煽んな」 「え?どーゆー意味?」 「なんでもねぇよ」 鈍い・・・鈍すぎてこっちがどうしていいかわかんねぇ。涼太のそういう所が俺の思考回路を狂わせている。 「口、開けてろ」 俺の言葉に素直に従って、涼太は小さく唇を開いた。綺麗に並んだ歯の奥に湿った涼太の舌がチラリと見えて、俺の頭の中は欲望で支配されてしまいそうになる。 「舌、入れるからな」 そう言うと、反射的に涼太の体に力が入ったのがわかった。 薄く開いた唇を割って舌を滑り込ませ、涼太の舌をつついた。続けて舌の左右を撫で、舌の裏をゆっくり撫でながら舌と舌を絡ませる。 「っはぁ、あ、っ」 次第に涼太の声が吐息と共に漏れ出して、目尻には涙が溜まり始めて、それを見た俺は気が変になりそうになる。 罪悪感が無いわけじゃない。それを遥かに凌駕する浅ましい感情が俺を支配していた。 「ぅ・・・あ、なん、か」 深いキスの合間に、涼太が声を絞り出す。 涼太に少しの解放を与える。 「オレ、ヘンな感じになってる、青、ちょっと聞いていい?」 「・・・何?」 「気持ちいいって、思うの、オレ間違ってねぇ?」 涙目の涼太の問いかけに、全身の血液が沸騰してるみたいに熱くなる。 なんなの、こいつ、なんでこんなに・・・ 「間違ってねぇよ、俺が涼太にする事、ちゃんと頭と体で覚えろよ」 「・・・わかった」 涼太の頷きを確認して、俺はもう一度涼太に口づける。暴走してしまいそうな感情を必死に押さえながら・・・

ともだちにシェアしよう!