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第10話 運命の日
ああ、ついにこの日が来てしまった・・・
涼太がドス黒の生贄になってしまうこの日が。
「おい!青、この嘘つきヤロー!ぜんっぜん消えねえじゃねーか!」
朝からシャツを捲りあげ、生白い腹部に点々と残るキスマークを俺に見せつけてくる。
こいつ、こんなにうるさいキャラだっけ?
と思いつつ「ああ」と生返事をする。
今、俺はそれどころじゃないんだよ・・・
「聞けよ、ったく。服着たままセックスってアリなのか?」
セックス・・・はぁー・・・
俺は無力だ・・・結局、あれ以上涼太には手を出せず、この日を迎えてしまった。
「じゃあ、行ってくる、オレが無事帰還できるように健闘を祈れよ」
右手で作った拳を自分の左胸に押し当て、腹を括った涼太は、顔を強ばらせながら俺に言った。
・・・はぁ~・・・
「青も早く出ないと、講義、間に合わねえぞ」
涼太はそう言って部屋を出た。
「講義なんか出れる状態じゃねえよ」
ひとり残された部屋で小さく吐き捨てる。
・・・決めた。尾行する。
俺は猛ダッシュで着替えて、変装用に伊達メガネをかけ、涼太の後を追うために部屋を飛び出した。
駅まで来ると、涼太が電車に乗り込む姿が見えて、俺も急いで隣の車両に乗り込む。人混みの中、なんとか涼太が見える位置に移動し、監視を続けると、涼太がビクッと肩を上げて後ろを振り返る。
なにやってんだ、あいつ
涼太の後ろに中年のサラリーマンが立っていて、涼太はそいつの顔を無言で睨み、フイっと前を向きなおして俯いた。
涼太の顔がみるみる赤くなっていく。
・・・もしかして、痴漢されてんの?
嘘だろ、涼太!おまえ、男からも狙われんのかよ!ふざけんな、きったねえ手で俺の涼太に触ってんじゃねえよ、おっさん!
涼太に近づきたいのに、人波に阻まれて思うように進めない。
くっそ、なんなんだよ!
間もなくして、電車が駅に停車して、降り際に涼太が振り返り、おっさんの股間に蹴りを入れて、ホームに出た。
涼太、ナイス!
やべ、俺も降りなきゃ。
駅から出たところで、涼太とあさみさんが見えた。
こうやって傍から見ると、あの二人絵になるな・・・
誰が見ても、美男美女カップルだ。周りは誰も声を掛けないし、羨望の眼差しでふたりを見守っている。
俺が涼太の隣に居ても、カップルだ、なんて思う奴はいないだろう。それどころか、浅ましい女達が声をかける恰好のターゲットになってしまう。
そんな事を考えながら、二人を尾行しているといつの間にか人気のない通りに入っていた。
辺りを見渡すと、ラブホテルが立ち並んでいる。
あのドス黒、こんな朝っぱらから・・・
一軒のホテルの前に立ち止まり、あさみさんが涼太の手を引く。が、涼太はその場から動かない。
そんな涼太を上目遣いで覗き込み、涼太の腕に手を回し引っ張っていこうとする。が、涼太は動かない。
もう!とふくれっ面をして、しょうがないなあ、といった感じで正面から涼太の首に手を回し、つま先立ちをしたあさみさんの顔と涼太の顔が近付く。
その光景を見ていた俺は、嫉妬と独占欲で走り出していた。
無言で涼太の腕を掴み、あさみさんから引き離し、自分の腕の中に閉じ込めた。
「え?同居人くん?」
「あ?青?おまえ大学どうしたんだよ、なんでメガネかけてんの?」
この状況でなんでそんな事聞けんだよ、涼太・・・もっと他にあんだろ。
「で、なんで同居人くんがここにいるの?」
少し不機嫌そうなあさみさん。
「そ・・・れは、・・・」
口ごもる俺を見上げる涼太。
ダメ、だ。やっぱり誰にもやれない。たとえ涼太が俺を友達以上には思えないとしても、誰かのものになるなんて、許せない。
「青?どーしたんだよ、おまえ、なんかへんっ、う、・・・っやめろ!」
俺はあさみさんに見せつけるように、涼太にキスをした。
「実は、俺たちこういう関係なんで。だから悪いけど、涼太にあさみさんを抱かせるわけにはいきません、すみません」
「ちょ、おい、何言ってんだよ、こういう関係って、待てよ」
涼太がしどろもどろになっている。後でぶっ殺される覚悟はできてるから、今は俺に従ってくれよ、頼むから・・・
「そう」
あさみさんが自分の肩に指を食い込ませて小刻みに震えていた。
「すみません、不快な思いさせてしまって・・・」
「不快?・・・とんでもないわ!わたし、今すっごく萌えてるの!」
「「え?」」
思わず、涼太と顔を見合わせる。
「わたし、イケメンは大好きだけど、それ以上にBLが大好物なの!ヤバイ!今のキス!神々しすぎる!ありがとうございます~!」
俺たちに向かって、手を合わせて拝み込むあさみさん。
え?何が起こったの?え?
「ありがたやありがたや」と、拝むあさみさんを、放心状態で見続ける俺たちなのであった。
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