17 / 210

第17話 天然ノンケの所有権

翌日 涼太の様子を見に行くと、ぐっすり眠っていて起きる気配は無かったが、首元に手をあてると、熱は下がっているようだった。 時計を見ると、11時少し前。 部屋を出て、近くのカフェへ向かう。 「悪いな、宮野。急に呼び出して」 「全然大丈夫だよ。ちょうど山田と話したかったしさ」 「昨日は途中で抜けて、悪かったな」 「あー、気にしなくていーよ。それより涼ちゃん、具合だいじょぶだった?」 「ああ、今朝はもう熱下がってたよ。まだ寝てるけど」 「そーなんだー、よかった。昨日つらそうだったしさ、気になってたんだ」 「・・・気になってたのは、熱の事だけか?」 俺の質問に、宮野のコーヒーカップを持つ手が一瞬止まる。 「・・・そーだなぁ、あとは、涼ちゃんはどんな女の子とエッチしてんのかな、それとも男に抱かれてんのかな?どんな奴が涼ちゃんの細い首にかじりついてんのかな?とかね」 「やっぱりお前か」 「こっちのセリフなんだけどなぁ、それ。そんな怖い顔すんなよ、山田。あの様子じゃ、涼ちゃんはお前とおんなじ気持ちじゃなさそーじゃん」 「そんな事は大した問題じゃない」 「気持ちって大事だと思うけど?そんなんじゃ、他の男に取られちゃっても文句言えねーよ?」 「涼太が他の男のものになる未来は、来ねえ」 「・・・へえ、たいした自信じゃん。他の男に簡単にキスマーク付けられてんのに」 「あれは、涼太から目を離した俺の責任だ。だけど、もう誰にも触らせねえ」 「そうやって縛ってたら、いつか誰かに逃げたくなるんじゃねえかな?・・・例えば俺のところとかね」 バンッ 俺は、千円札をテーブルに叩きつけて席を立つ。 「これだけは言っとく。涼太は、女のケツ散々追っかけ回してきたお前が、手出していい男じゃねんだよ。遊びのつもりなら、今すぐ手ぇ引け」 宮野にそう釘を刺し、カフェを出た。 「あんだけ男、夢中にさせる体なんだ、涼ちゃん。やっぱ、欲しくなっちゃうな~」 カフェを出て薬局に寄ってから帰ると、涼太は出かけているようで、昨夜汚したシーツが、洗濯機の中で回っていた。 今日は仕事は休みのはず・・・ ったく、フラフラどこ行ってんだよ。 「ただいまー」 夕方になり、やっと涼太が帰ってきた。 「涼太、熱下がったばっかなのに、フラフラ出かけてんなよ」 「だいじょぶだよ、もう」 「熱が下がっても、昨日無理させて・・・」 「あーーーー!そんなことより!」 俺の言葉を大声で遮り、涼太が玄関のドアを開ける。 パンッ 「青、ハピバ~!」 クラッカーの音と共に、カズと優也が部屋になだれ込む。 「ちょ、おい」 「照れんな、青!お祝いという名のただの家庭訪問だから!」 「結構広いんだね、ちゃんとリビングもあるし、俺も真奈と同棲しよっかなぁ」 「死ね!優也!」 カズと優也が部屋を見て回る。 「あっれぇ、涼太くんのシーツが無くて、乾燥機の中ってことは、おねしょでもしたんでちゅか~?」 カズの一言で、俺と涼太が凍りつく。 「ちちちっげーよ!昨日までオレ、熱あって、汗いっぱいかいちゃったから、だからだから、洗ってるだけだよ、なあああ、青?」 涼太、動揺しすぎだから・・・ 「なんかあやしいな、ま、おおかたエロ動画観てて、ひとり寂しくうっかり汚したんだろ。俺もよくあるからわかるぜ、相棒!」 ガシッと涼太の肩を抱えるカズ。ああ、こいつがアホでよかった・・・ 「にしても、こんなもんまで使ってんのか、涼太くんは」 涼太の目の前で、カズが液体の入ったボトルをプラプラさせる。 それ、昨日のローションじゃねえかぁぁぁ! やっっべえぇぇ、置きっぱなしにしてたぁぁ! 思わずカズの手からボトルをもぎ取る。 「え?それ、青のなの?なんで涼太の部屋に置いてあんだよ」 「え?いや、これは、彼女ができたら使おっかな~と思ってたんだけど、涼太がひとりでやるときに使ってみたいって言うから・・・」 ものっすごい怒りの目で涼太が俺を見る。 ごめん、涼太。 「おまえら寂しいヤツらだな。俺もだけどな!なんか泣けてくるぜ・・・」 はあああ~、カズがバカでホント良かった。 ・・・ごめん、涼太。 「そんなキミに俺様達からありがたい誕生日プレゼントをやろう」 カズがずいっと出してきた紙袋の中には「オトナの缶」と書かれた大きな缶詰が入っている。 「なんだよ、これ」 「さみしい夜のお供だよ。若者。中身は開けてからのお楽しみだ」 いらねえ~! と正直思ったが、とりあえず貰っておく。 「んじゃあ、俺たち帰るわ、この後バイトだし」 「俺は真奈と約束あるし」 「死ね!優也!じゃあまた来るわ」 あっという間に帰って行くカズと優也。 なんだったんだよ・・・無駄に疲れたじゃねえか。 ドアを閉めて振り返ると、無表情に無表情を重ねた、涼太が俺を睨んでいる。 「置きっぱなしにしちゃってた。ごめん、てへっ♡」 「てへ♡じゃねんだよ、このクソ変態やろーがぁぁぁ!」 この後ブチ切れた涼太に半殺しにされたのは・・・言うまでもない。

ともだちにシェアしよう!