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第18話 欲しいもの
「おい、いつまで死んでるつもりだよ、メシ食うぞ」
「涼太がボッコボコにしたんだろ、俺を、このイケメンを!」
「お前が、カズ達に変な事言うからだろ!ちゃんとしまっとけよ、あんなもん」
「あんなもんで、あんなに善がってたの誰だよ」
「よ・・・!がって・・・ねえ!」
俺は全身の痛みをこらえて何とか床から這い上がり、ソファに座る。
「いてててて。ほんと、細っちろいくせに涼太の蹴りは重すぎんだよ・・・こんなイケメンをここまでボコボコにできるかね、ふつー」
「イケメン様の顔だけは避けてやっただろ。感謝しろ」
コトッ
テーブルの上に涼太が作ったパスタとサラダと一緒に小さめのホールケーキが置かれる。
「涼太、覚えてたんだ・・・」
「まあな。青の欲しいものわかんなかったし、とりあえず、ケーキ買いに行ったら、カズから電話かかって来て、合流してから帰って来た・・・」
俺はたまらなくなって、テーブル越しに涼太の腕を掴む。
「俺の欲しいもの、ほんとにわかんねぇ?」
「・・・?わかんねえ。・・・エロ本とか?」
はああああ~?
そうだった・・・こいつ、こういうやつなんだよ・・・。
「それはおまえの欲しいもんだろ。中学生か!」
「うっせえ!男のロマンだろうが!中学生からじいちゃんまで全ての男のロマンが詰まってんだよ、エロ本は!」
「・・・じゃあ、エロ本より、やらしー事、してやろうか?」
「っ!い、いらねえ!・・・食うぞ!」
顔まっか・・・涼太クッソかわいいな~、かわいいな、クソ!
食事を終えて、ケーキにロウソクを立てる。
「あ、なんか火つけるもん・・・どっかになかったかな~」
涼太がキッチンの引き出しや棚を探すが、見つからなかった様子で戻ってくる。
「いっ!てて・・・」
涼太は、床に座ろうとした時に、少し顔を歪めてゆっくり腰を下ろした。
あ、そういえば・・・
昼間、薬局で買ってきたものを涼太に渡した。
「なに?これ」
「あー、軟膏。ケツに塗っとけ」
「ケツ・・・え!?あー・・・」
耳まで真っ赤にした涼太が、目を泳がせながら恥ずかしそうに俯く。
なんか・・・いちいちムラっとさせるな、こいつ。
テーブルを挟んで、涼太と向かい合って座っていた俺は、涼太の隣に移動して、俯いた涼太の顔をのぞき込んだ。
「な、なんだよ」
「・・・いや、なんか、かわいいな、と思って」
「かわっ?ちょ、青、ほんとおまえどっかおかしーんじゃねえ?狂った事言ってないでケーキ食えケーキ!」
「涼太が食わしてよ、はい、あーん」
「はあ?バッカじゃねぇ?自分で食え。ほら、フォーク」
差し出されたフォークを、涼太の手ごと掴んでケーキにさす。そのまま掬って、自分の口元まで持ってくる。
「ちょ、自分で食えって!」
涼太が咄嗟に手を引いた為に、掬ったケーキは俺の口に入らず、唇の横に掠って床に落ちた。
「あーあ、落ちちゃった」
「おまえが変な事すっから!もー!」
床に落ちたケーキを拭き取りながら文句を言う涼太の顎を持ち上げ、顔を寄せた。
「え?ちょ、なに・・・」
「俺も、クリームついちゃったから、涼太が舐めて取ってよ」
「・・・え・・・」
「ホラ、早く舐め取って」
「む・・・むり・・・」
どこか怯えた顔の涼太を尻目に、俺は指でホールケーキからクリームを掬って、涼太の口元に塗りつけた。
「涼太もクリームついちゃったな。俺が舐め取ってやるよ」
「やだっ、待て・・・ひぁ」
口元のクリームを舐めると涼太はビクッと肩を竦める。
もう一度ケーキからクリームを掬い、涼太のシャツのボタンを外して、隠れていたキスマークを覆うように、指に付いたクリームを塗りつける。
「青!服汚れんだろ!ちょっと、もうやめろって!」
「無理。・・・おまえの口癖だろ?」
「はぁ?それはおまえがっ・・・あ、やだっ、う、んんっ」
首についたクリームを舐めると、涼太が体を捩らせた。
涼太の甘い声に反応して、俺は全身の血液が逆流しているかのような感覚に陥る。
涼太を床に押し倒し、上から覆いかぶさって見下ろすと、不安げな涼太の瞳があった。
鏡越しに見た、自分の欲情した顔を思い出す。
今も涼太の目には、あの顔が映ってんのか・・・
俺の欲しいもの・・・
俺が欲しいのは、涼太の・・・体?涼太の心は・・・
悔しいけど、宮野が言ってたことは事は正しい。
「気持ち」はきっと大事なことだ。
強引に体を奪っても、涼太を手に入れたことにはならない。
俺はそっと涼太から離れた。
「あ、青のド変態!てめぇも痴漢オヤジどもとかわんねーじゃねぇか!バカ!」
涼太はガバッと起き上がり、寝室に入ってドアを力任せに閉める。
ガーン・・・痴漢と一緒とは・・・待てよ、「オヤジども」って、痴漢されたのはあの一回だけじゃないって事か?
ガチャ
「てか!ケーキちゃんと食っとけよ!食べ物を粗末にすんじゃねえ!バカ!」
バタンッ
バカバカって・・・はぁ。
はあああ~。また、怒らせちゃったな・・・
涼太の気持ちを手に入れるまで、か・・・
もしかしたら、そんな日は来ないのかもしれない。
だけど、やっぱり俺は・・・涼太を手放すことだけは考えられない。
俺は、涼太への欲望をケーキとともに腹の底へ押し込んだ。
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