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第32話 天然ノンケの憂鬱 3
涼太のただいま代わりの蹴りを避け、身を呈して受けた2発目の蹴りで涼太を何とかつかまえた。
腹いってぇ。マジでこいつ、こんなかわいい顔してなんつー暴れん坊なんだよ・・・
俺はつかまえた足を抱えたまま、壁に涼太の背中を押し付けた。
「なにすんだよ!痛えな!」
「それ、こっちのセリフ。なに?帰ってくるなり。そんなにおかえりのキスしてほしいわけ?」
俺の一言に、涼太の白い肌が一気に紅く染まる。
「んなわけねーだろ!離せ!裏切り者!ドス黒の下僕め!」
「はあ。なんでそーなるんだよ」
「うるっせぇ!離せ!」
「ほんと、ちょっと黙っとけ」
空いている片手で涼太の胸ぐらを掴み、涼太の口を塞ぐようにキスすると、今まで喚いていた涼太が急におとなしくなる。
なんだよ。ほんっと。マジでかわいい!クッソかわいい!
「なあ、ちゃんとキスさせて」
「やだ。青はドス黒のお仲間だから」
「・・・俺は、涼太を手に入れるためだったらなんでもする。ドス黒だろうがなんだろうが、利用できるならなんだって」
「お、オレは・・・。てか、なんでそこまですんだよ!」
「言っただろ。涼太が好きだって。涼太の全部が欲しいんだよ」
「っ全部って・・・」
涼太が下を向いて、困ったように眉を寄せる。
涼太が表情を少し変えただけで、ぎゅっと胸が苦しくなる。
抱えた足を下ろして、涼太を両手で抱きしめる。
「全部。涼太のどんな顔も、どんな声も、からだも、心も。髪の先からつま先まで、全部、俺のものにしたい」
「青、おまえこえーよ、まじで」
「かもな。でも、こんな俺にしたのは涼太だろ?責任取れよ」
「はあ?なんでオレの責任なんだよ。オレはなんもしてねぇ!」
「そうかもな。でも、涼太以外の誰にもこんな気持ちにはならない。だから、おまえのせい」
涼太を抱く腕に力を入れると、涼太は肩で大きく息をした。
「・・・なあ、人を好きになるって、青みたいになっちゃうってこと?」
「え・・・?」
「オレも誰かを好きになったら、そいつの全部が欲しくなって、こーゆー事すんのかな?」
涼太の質問に一気に指先が冷たくなる。
涼太が俺以外のやつにそんな気持ちになる・・・?
「涼太・・・そうなりそうな人でもいんの?」
「え・・・まだわかんねえ、けど・・・、うーん・・・よくわかんねぇ」
ちょっと待てよ!オイオイオイオイ!
わかんないってどーゆーこと!?
てか誰だよ!
「まあ、自分でもよくわかんねえから、わかったら言うよ」
「・・・」
「なんだよ、急に黙り込んで。とりあえず、明日、温泉行く前にちょっとオレ出かけてくるから。昼過ぎには帰ってくるから、ちゃんと準備しとけよ」
「・・・」
「なんなんだよ。わけわかんねーやつ。オレ風呂入って寝るわ」
俺の腕を外して自分の部屋に入る涼太。
ダメだ。完全に思考停止だ、俺。
今更、宮野が言っていた言葉が突き刺さる。
『気持ちって大事・・・いつか誰かに逃げたくなる・・・』
しかし、俺のこの不安に対しての答えが出るのは、そう遠い未来ではなかった・・・
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