51 / 210
第51話 初恋 1
「青が、好きだ」
え・・・。涼太、今なんて・・・。
「・・・キス、しねえじゃん」
「・・・っ」
俺は、涼太の手を引いて、人気の無い建物の影に連れていく。
いつもなら、こうやって俺が強引に引っ張ると文句を言う涼太が、今は無言で下を向いたままだ。
「涼太。もう一回、言って」
「・・・もう、言わねー」
「言えよ」
「無理」
下を向いたままの涼太の頬を両手で包み込み、俺の方を向かせ、視線を合わせる。
「言え」
泣いてはいなかったが、涼太は今にも泣きだしそうに瞳を揺らしていた。
今まで見たこともないくらいに、憂いを帯びた、熱っぽい表情の涼太に、理性が吹っ飛びそうになる。
俺は涼太のからだを抱きしめ、唇を重ねる。
時々、立っていられなくなった涼太の制止が入ったが、涼太が崩れないように強く抱きしめ、夢中で深いキスを繰り返した。
涼太が自分の意思で俺の腕の中にいる。そう思うと、頭の中が蕩けてしまいそうだ。
「あ、あおっ、講義・・・出ないと」
こんな時に、講義なんか出てる場合じゃねーだろ!
「別にいい。今は涼太と一緒にいたい」
「ダメ、だって!オレのせいで、留年したら、やだ」
「一回落としたくらいで、留年なんかしねーよ。黙ってろ」
「だめ、だって、そーゆーの、や、なんだよ」
「・・・うるせぇな。わかったよ」
はあ、変なとこマジメなんだよな、こいつ。
名残惜しいが、唇を離して涼太からからだを離す。
「涼太が好きって言ったら、講義に戻る」
「は?もう言わねーって言っただろ!」
「じゃあ、戻らねー」
「・・・帰ったら、もっかいだけ、言ってやる」
俯いている涼太の耳が真っ赤になっている。
~~~!マジかわいすぎ!やば!
このままここで押し倒してしまいそうだ・・・
それはまずいな、落ち着け、俺。
「わかった。戻る。涼太、帰るならもう少ししてからにしろ」
「え?なんで?」
「おまえのそんな顔、誰にも見せたくねぇから、落ち着いてから帰れよ」
「・・・どんな顔だよ・・・、はあ」
わかったと小さく呟いた涼太と別れ、講義に戻る。
「友達、スマホ持ってきてくれたんだ?」
「ああ」
席に戻ると、隣に座っていた加藤が俺に聞く。
「友達の家に忘れちゃったの?」
「イヤ、一緒に住んでっから」
「そうなんだ。あ、昨日借りた傘、今度持ってくるね」
「あー、別にいいよ。コンビニのやつだし。いらなかったら捨てといて」
「じゃあ、お礼させて?今日とかあいてない?」
「今日はちょっと・・・。つーか、そんなたいしたことしてねーから、気にしないで」
「・・・ありがと。青くん、いい事あった?さっきと雰囲気違うね」
女はほんと勘が鋭いな。
まあ、優也にもわかりやすいって言われたもんな。顔に出てんのかな~。
「あー、うん。・・・やっと報われたんだと思ったら、すげー嬉しくて」
「彼女できたんだ」
「彼女じゃないよ」
彼氏です。
「そーなんだ」
頭の中がお花畑になっていたこの時の俺は、この女の怖さに、気付くはずもなかった。
ともだちにシェアしよう!