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第51話 初恋 1

「青が、好きだ」 え・・・。涼太、今なんて・・・。 「・・・キス、しねえじゃん」 「・・・っ」 俺は、涼太の手を引いて、人気の無い建物の影に連れていく。 いつもなら、こうやって俺が強引に引っ張ると文句を言う涼太が、今は無言で下を向いたままだ。 「涼太。もう一回、言って」 「・・・もう、言わねー」 「言えよ」 「無理」 下を向いたままの涼太の頬を両手で包み込み、俺の方を向かせ、視線を合わせる。 「言え」 泣いてはいなかったが、涼太は今にも泣きだしそうに瞳を揺らしていた。 今まで見たこともないくらいに、憂いを帯びた、熱っぽい表情の涼太に、理性が吹っ飛びそうになる。 俺は涼太のからだを抱きしめ、唇を重ねる。 時々、立っていられなくなった涼太の制止が入ったが、涼太が崩れないように強く抱きしめ、夢中で深いキスを繰り返した。 涼太が自分の意思で俺の腕の中にいる。そう思うと、頭の中が蕩けてしまいそうだ。 「あ、あおっ、講義・・・出ないと」 こんな時に、講義なんか出てる場合じゃねーだろ! 「別にいい。今は涼太と一緒にいたい」 「ダメ、だって!オレのせいで、留年したら、やだ」 「一回落としたくらいで、留年なんかしねーよ。黙ってろ」 「だめ、だって、そーゆーの、や、なんだよ」 「・・・うるせぇな。わかったよ」 はあ、変なとこマジメなんだよな、こいつ。 名残惜しいが、唇を離して涼太からからだを離す。 「涼太が好きって言ったら、講義に戻る」 「は?もう言わねーって言っただろ!」 「じゃあ、戻らねー」 「・・・帰ったら、もっかいだけ、言ってやる」 俯いている涼太の耳が真っ赤になっている。 ~~~!マジかわいすぎ!やば! このままここで押し倒してしまいそうだ・・・ それはまずいな、落ち着け、俺。 「わかった。戻る。涼太、帰るならもう少ししてからにしろ」 「え?なんで?」 「おまえのそんな顔、誰にも見せたくねぇから、落ち着いてから帰れよ」 「・・・どんな顔だよ・・・、はあ」 わかったと小さく呟いた涼太と別れ、講義に戻る。 「友達、スマホ持ってきてくれたんだ?」 「ああ」 席に戻ると、隣に座っていた加藤が俺に聞く。 「友達の家に忘れちゃったの?」 「イヤ、一緒に住んでっから」 「そうなんだ。あ、昨日借りた傘、今度持ってくるね」 「あー、別にいいよ。コンビニのやつだし。いらなかったら捨てといて」 「じゃあ、お礼させて?今日とかあいてない?」 「今日はちょっと・・・。つーか、そんなたいしたことしてねーから、気にしないで」 「・・・ありがと。青くん、いい事あった?さっきと雰囲気違うね」 女はほんと勘が鋭いな。 まあ、優也にもわかりやすいって言われたもんな。顔に出てんのかな~。 「あー、うん。・・・やっと報われたんだと思ったら、すげー嬉しくて」 「彼女できたんだ」 「彼女じゃないよ」 彼氏です。 「そーなんだ」 頭の中がお花畑になっていたこの時の俺は、この女の怖さに、気付くはずもなかった。

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