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第52話 初恋 2

早く、家に帰りたい。 俺はこんな所で何してんだ・・・。 「ごめんね、青くん。予定あったのに」 「イヤ。大丈夫だよ」 正直早く帰りたいけど。 「また待ち伏せとかされるの怖くって・・・」 俺は、カテキョのバイト帰りに出会った、同じ学部の加藤さやを家に送り届けている途中。 道端で泣きながらうずくまっていた加藤を、無視することも出来ず声をかけたら、送るハメになってしまった。 どうやら、元彼に付きまとわれているらしく、ついさっきも乱暴されそうになって、怖くて逃げたところに、俺が通りかかった次第。 はあ。早く帰って涼太からの「好き♡」が聞きたいのに・・・。 さすがに、泣いてる知り合いの女の子放って帰るほど、俺も非道じゃないからな。早く帰りたいけど! 加藤の家は、大学からだとウチとは反対方向の電車でひと駅の所らしい。 もう22時過ぎてる。なんでこんな時間から大学より先に戻んなきゃなんねーんだ。ああ、早く帰りたい・・・ 「青くん、もしかして好きな人と会う予定だった?」 「会うっていうか、家にいるから」 「・・・そっか、家に出入りするような仲なんだ。なんか、その人が羨ましいな」 「加藤、かわいいんだから、元彼から守ってくれるような男、すぐできるよ」 「そんなことないよ。ねえ、青くんの好きな人ってどんな人?かわいい?」 どんな人って・・・涼太は・・・ 「どっちかっていったら、かわいいよりキレイな方かな。顔はたいてい無表情だけど」 「性格はどんななの?」 涼太の性格は・・・ 「ガキみたいかな。すぐ怒ってうるさいし、機嫌が良くなってもうるさい。あと、怒った時にすぐ足が出る。あと、頭ん中はエロしかない」 「全然褒めてないけど、本当に好きなの?」 あ、ほんとだ、褒めるとこがない。でも・・・ 「誰にも渡したくないって思うくらいには好きだよ」 「でも彼女じゃないんでしょ?」 男だし、彼女ではないだろ。 「そこは別になんだっていいんだよ。そばにいてくれさえすれば」 「そんなに好きなんだね。・・・ここ、私のアパート。寄ってく?」 寄るわけないだろ。早く帰りたいんだっつーの。 「いや、帰るわ。元彼が怖いなら、あんな時間までフラフラしてないで早く帰った方がいいと思うよ。じゃあな」 「・・・送ってくれてありがとう」 はあ。疲れた。もう23時過ぎてんじゃん!時間をクソ無駄にしたな・・・。 「ただいま」 リビングに涼太の姿がない。 涼太の寝室に入ると毛布にくるまって、すでに寝てしまっている。 ガーン・・・ひと足遅かったか・・・ 寝ないで待ってるようなやつじゃないもんな・・・ なんで夏でも毛布なんだよ・・・。 丸まっちゃって、くっそかわいい!! 涼太の頭を撫でながら、ふと、前にした会話を思い出す。 『誰かの事、想ってドキドキしたり、苦しくなったり、した事、あんの?』 『・・・ない』 ってことは・・・ 「涼太の初恋は、俺って事だよな?」 やばい。そう考えると、胸がキュンキュンしてくるじゃねーか! 「あーもう、涼太好きすぎ!」 毛布にくるまって寝ている涼太を毛布ごと、ぎゅーっと抱きしめる。 俺は、幸せいっぱいでそのまま寝落ちてしまった。 「オイ、青、起きろ」 ん、朝?俺、あのまま寝て・・・ 体を起こすと、涼太が腕組みをして俺を睨む。 「てめー、風呂も入らないで汚ねー服のまま、オレのベッドで寝てんじゃねえよ!」 ドカッ 「ぐっ!」 俺の腹に涼太の蹴りがクリーンヒットする。 「二度とオレの部屋に入んじゃねえ!」 「す、すいません・・・」 涼太の「好き♡」を聞くどころか、また怒らせてしまう俺・・・。 両想いになってもこれか・・・俺達がラブラブになる日は来るのだろうか・・・?

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