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第55話 恋人orNOT恋人 3
「ね、エッチな事、しよ?」
は?
加藤はそのまま唇を重ねてくる。
「青くん、私じゃだめ?」
加藤は大きな瞳でじっと俺を見つめてくる。
「悪い」
首に回った加藤の腕を外し、立ち上がる。
「なんで?そんなにその子がいいの?彼女じゃないんでしょ?宮野くんとふたりで飲みに行っちゃうような子なんでしょ?私だったらそんな事しない!」
背を向ける俺に、加藤が捲し立てる。
「それが何?少なくとも、あいつは加藤みたいに男誘ったりはしない。じゃあおやすみ」
うちに帰ると、珍しくまだ涼太は起きていた。
「おかえり」
「ただいま。まだ起きてたんだ」
「明日休みだし、エロ本みてた」
帰るの待ってたんじゃないのかよ!
ほんと、こいつは・・・。
「ただいまのキスしていい?」
「ダメっつったらしねーのかよ」
「する」
「すんなら、いちいち聞いてんじゃねえ」
涼太はエロ本をテーブルにバサッと置いて、少し目を伏せる。
ソファに寄りかかっている涼太に跨り、キスをする。
キスする時、いつも涼太は俺と目を合わせないようにする。
その仕草が、とてもいやらしく見えてしまう。
「・・・なんか、甘い匂いがする」
涼太の言葉にドキッとする。
加藤の匂いが移ったのか、やべえ。
「あー、酔っ払った女の子、送ってきたから」
「・・・へー。もしかして、『加藤さや』?」
「涼太、知ってんの?」
「スマホ忘れた時、何回もかかってきてたから。で、その加藤さんの匂い移るくらいくっついてたって事だよな?」
くっついてた・・・。間違いではないけど・・・。
「くっついてきてたのは、加藤で、俺からじゃねえし」
「・・・で、そんなとこになんか、つけられるくらいくっつかせてたって事だな?」
涼太が俺の胸の上あたりを指さす。
あ!なんだコレ!加藤の口紅ついてんじゃん!
「こ、これは、いろいろ事情が・・・」
涼太が、俺の口元をじっと見てくる。
・・・まさか
「いろいろ事情があって、キスまでしたって事で間違いなさそーだな?」
やっぱ、そこにもついてんのかよ~!
「・・・やっぱ、それが普通だよな。青、イケメンだし。女と付き合ってるので普通だよ」
なんで?そこ、怒るとこだろ?
俺は涼太の恋人なんだろ?
「・・・なに達観してんの?涼太は、それでいいのかよ?」
「いいもなにも、好きだからって男同士で付き合えるわけでもねぇし。オレがなんか言える立場じゃねえじゃん」
なんでだよ。もっと図々しくなれよ。もっと嫉妬しろよ。もっと俺を欲しがれよ。
「俺は、涼太の事、恋人だって思いてぇし、涼太が誰かになんかされたら、そいつ殺してぇって思うし、涼太見てると抱きたいって思う。おまえは違うの?」
「オレは・・・」
涼太は言葉につまって、瞳を左右に揺らす。
「・・・もう寝る」
立ち上がり去ろうとする涼太を、ソファに引き倒す。
「逃げんな」
「逃げてなんか・・・」
「俺の事が好きだって言ったのは、嘘か?」
「っ、嘘じゃねえし!」
「なら、おまえがどう思ってるか言えよ。俺が、女とキスしてきて、おまえは本当に平気なの?」
「・・・平気なわけねぇじゃん」
「じゃあ、どんな気持ちなんだよ」
「・・・やめろよ」
涼太が眉を寄せて泣きそうな顔になる。
「もうオレを、引っ掻き回すな」
「ダメだ。やめない」
「なんで・・・」
「涼太の全部が欲しいから。涼太の中にある汚ぇところもぐちゃぐちゃなところも、全部」
「嫌だ」
「俺が全部暴いてやる」
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